39.原作改変というやつですね(リリア視点)
ぱちりと目を開けた。
視界がぼんやりとしています。何となく、後頭部が痛い、ような。
目の前に広がるのは、見慣れない部屋でした。古びたお屋敷と言った風情です。
じわじわと思い出してきました。
自分の部屋にいたら、突然知らない人が何人も入ってきて、それで……たぶん、殴られたか何かで、気を失ったのでしょう。
「気がつきましタか」
くすくすと笑う声がして、目を向けます。
思った通り、そこにいたのはヨウでした。狐目を細くして、にやにやと笑っています。
エリ様の言ったとおりだな、と思いました。その笑い方は、ゲームの中のヨウとは全く違っていて……明らかに、悪役の笑みでした。
身体を動かそうとして、後ろ手に縛られていることに気づきます。ま、縛られていなかったところで、わたしにこの状況をどうこうできるとは思いませんけれども。
「こ、ここは?」
「ワタシたちの拠点デス。見てのとおり今は使われていない屋敷デスし、街の中心からも離れていマス。騒いだところで助けは来まセンよ」
「ど、どうして、わたしを?」
「エリザベス・バートンを誘き出すためデス」
彼の黒い瞳が、僅かに見えました。黒々とした、光の無い目でこちらを見下ろしています。
「バートン家には何度も煮え湯を飲まされましタ。次期公爵がウィルソン伯爵家の悪事を糾弾したせいで、伯爵を懐柔して銃火器を持ち込む計画に遅れが出ましタ。エリザベス・バートンとその義弟が密猟を妨害したせいで、資金稼ぎに影響が出たばかりか、拠点の場所がバレて襲撃を受けましタ。聖女をこちらに引き込む予定でシタが、常にエリザベス・バートンがべったりで付け入る隙がありまセン」
後半2つに心当たりがありました。ちなみに最後の1つはエリ様がべったり、というより、わたしがべったり、なのですが。
「バートン公爵家で一番邪魔な存在が、エリザベス・バートンデス。一人で一個師団にも匹敵する戦力……アレがいるだけで、バートン公爵家には手を出しにくい。逆にあいつさえいなければ、攻め落とすのは容易い」
そうなのでしょうか? わたしは内心首を捻ります。
エリ様はそれはそれは強いですけど、公爵家の中では植木の次ぐらいの発言権しかないと言っていました。
男爵家の末席に過ぎないわたしの耳にも入ってくるような人望の公爵家の逸話は、エリ様とは関係のないものばかりです。
この国の貴族であれば、誰も「攻め落とすのは容易い」なんて、思わないでしょう。
「公爵家を落とし、聖女を手に入れる。そしてそれを足掛かりに、この国に攻め入る。ワタシが、それを成すのデス。ずっと見下してきた奴らに、目に物を見せるのデス。ワタシを、母を……身分が低いと見下して、駒のように扱ってきた奴らに……」
「ああ、そこはゲームのとおりなんですね」
「は?」
「あ、い、いえ。こちらの話です」
なるほど、と思いました。ゲームのヨウを悪役ナイズしているわけですね。
第6王子、しかも妾腹。黙っていては回ってくるはずもない王座を餌に、スパイの真似事をさせられている。
ゲームでは自分と母の身を守るため仕方なく、と言うことでしたが、この世界ではそれが野心にマイナーチェンジされているようです。
原作改変というやつですね。……わたしから見れば、改悪ですけど。
ヨウは、純粋さを残しているところがよかったのに。





