34.世界にたった一人の(???視点)
例のあの人視点です。
世界にたった一人の、僕の可愛い妹。
いつからだったろう。妹の様子が変わったことに気づいたのは。
何かに追い立てられるように、切羽詰ったように。
妹はどんどんと変わって行った。
生まれてからずっと見てきたんだ。それくらい、すぐに分かった。
長かった髪をばっさり切った。男の子の服を身に着けるようになった。
まるで、見えない何かと戦っているような。
戦うための準備をしているような。
あまりにめまぐるしい変化に、僕は、何も聞けなかった。
それとなく聞いてみても、はぐらかされて。年相応でない困ったような笑顔の妹に、僕は何も聞けなくなってしまった。
何かがあったのだと思う。僕や両親に言えないようなことが。もしかしたら、言ったところで誰も信じないようなことが。
たとえばそれは神のお告げかもしれないし、怖い夢かもしれない。
どうして話してくれないのだろうと思った。話してくれないと、分からないと思った。僕には分からなかった。
何故妹がこんなにも、変わっていくのか。
だけれど、1つだけ分かることがあった。
リジーが僕の、大切な妹だということだ。
それが分かっていれば、僕には十分だった。
頑張っていたら応援して、危険なことをしていたら、叱る。
障害があれば、乗り越えられるように手助けをした。どこかに行きたがっていたら、途中まで手を引いて案内した。
僕には、こんなことしか出来ないけれど。
それが僕にしか出来ないことかもしれないから。
リジーが変わったとしても、仮に変わっていなかったとしても。僕がすることは何も変わらない。
僕はリジーに大切だよと伝え続けた。言葉だけじゃなく、行動でも示し続けた。
いつか彼女が立ち止まったとき。僕という味方がいることを、思い出してもらえるように。
少しでも、彼女の力になれるように。
あの子はずっと頑張ってきたんだ。一人でずっと、戦ってきたんだ。
リジーはどんどん強くなった。
僕が手を引かなくったって、もうどこにだって行ける。
僕が今までしてきたように、両親が今までしてきたように。
他の誰かを守り、助けることができるようになった。何かを教えることが出来るようになった。
もう、守られるだけの小さな妹は、どこにもいない。
だけれど、もし強くなったからと言って、守る側になったからといって、兄が妹を守っちゃいけないなんて理由は、どこにもないはずだ。
僕は君を守るよ、リジー。
たとえどんなに君が、強くても。
たとえ君が一人で戦っていても。
僕は僕に出来る精一杯で、君を守る。
君は一人じゃないと伝え続ける。
君が大切だと伝え続ける。
だって、僕は君の家族で……たった一人の、兄だから。





