31.君、時々やけに強情なんだから
「ああ、姉上。おはようございます」
「おはよう、クリストファー」
支度をして朝食の席に行くと、クリストファーがすでにほとんど食事を終えているところだった。
今日はお兄様もすでに出かけたらしく、ダイニングには私と彼しかいない。
席について、私も食事を開始する。
「ちゃんと教科書持ちました? 今日は歴史の小テストのはずですよ」
「はいはい、持った持った」
適当に返事をしながら、壁際の柱時計を確認する。もう時間がないのでさっさと食べてしまわなければ。
「寝坊ですか?」
「いや、何だか寝てるはずなのに寝た気がしなくて。ランニングの後うとうとしていたら、いつの間にやらこんな時間でさ」
話している間にも欠伸が出る。
いけない。このまま学園に行ったらまた気の抜けた顔についてとやかく言われてしまう。
「特に、今日は妙に早く目が覚めたんだ。おかげでもう眠たくなってきた。サボって寝たいくらいだ」
「姉上」
「はい」
「いけません」
「はい」
冗談だったのだが、普通に怒られた。
我が義弟、最近どんどん侍女長みたいになってきている気がする。
生来の性格に、侍女長の口うるさいところ、バートン公爵家らしさ――と、私の悪いところ――の諸々がハイブリッドされてしまった。
もうちょっとお兄様に似て、のんびりした性格になってくれても良かったのだが。
最後のパンを牛乳で流し込んで食事を終える。クリストファーが呆れた顔でこちらを見ていた。
「今日は馬車で行こうかな。少しでもいいから、寝たい」
「じゃあ、ぼく先に馬車に行っていますね」
「うん」
急いで歯を磨き、髪型とメイクの最終確認を行う。コートを羽織ってマフラーを巻いた。
今日もまぁまぁ、盛れている。やはり盛れている方が良い。何が良いかと言うと、私の気分が。
正面玄関に行くと、馬車で待っているはずのクリストファーが馬の手綱を引いて立っていた。
「クリストファー?」
「……姉上、今日は馬で行きましょう」
「は?」
クリストファーが私の手を引いて、にこりと笑いかけた。
そのままぐいぐいと私の背中を押して、馬の――お嬢さんの前に立たせる。
わざわざ私を乗せてくれる彼女を連れてきているあたり、どうも本気らしい。
「ぼくが手綱を取りますから、姉上は後ろで寝ていてください」
「いや、それはどうなんだ、絵面的に」
「いーいーかーらー」
「ああもう、はいはい、分かったよ。君、時々やけに強情なんだから」
言い出したら聞かない義弟に負けて、私は馬に跨った。
まぁ、今さらモテるための見栄えを気にする必要もない。朝っぱらからクリストファーの機嫌を損ねるのも面倒だ。
「しっかり掴まっていてくださいね」
クリストファーが私の前に座り、手綱を取る。
妙に機嫌のいい義弟に、私はやれやれとため息をついた。お兄様同様、私もなかなか弟に甘い。
彼が腹を蹴ると、お嬢さんがゆっくりと進み出した。





