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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第4章 長い長いエピローグ編

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18.10年早い

「隊長」

「うん?」

「俺とも一戦、お願いします!」

「ああ、いいぞ」


 向かい合って立つ。

 開始の合図は、ヨウとの立ち合いでは途中から合図を出すのを放棄していたグリード教官が出してくれた。


 ロベルトと剣を交わす。数ヶ月前の剣術大会より、剣の重みが増しているような気がした。

 だが、今日はエキシビションではない。観客を意識する必要はないだろう。


 ということで、5秒で伸した。


「まだ、手も足も出ませんね」

「10年早い」


 手を差し出してやると、ロベルトは私の手を取って立ち上がった。


 間近で見上げると、また一回り大きくなった気がする。身長も、ガタイも。

 握った手のひらも私よりも大きい。豆が潰れて硬くなった、騎士の手だ。


「10年」

「ん?」


 貸してやった手を、両手で握りこまれた。


「10年経ったら、追いつけますか?」

「いや、それは言葉の綾というか、慣用句というか」

「前は百年早いとおっしゃいました。そのときより、俺は近づいているということでしょうか?」

「えーと。たぶん、そうだな。成長してるんじゃないか、お前は」


 はて。そんなことを言っただろうか。まったく記憶にない。

 どちらにしろ、ただのよくある表現だと思うのだが。


 ロベルトは真剣な、どこか縋るような目で、私を見る。


「俺が追いつくまで……待って、いてくれますか?」


 何を?

 思わず首を傾げたところで、ヨウがロベルトと私の間に割って入って来た。


「ノー! 握手が長いデス!」

「いや、お前が言うのか?」


 ことあるごとに手を握ったりハグを求めてくるやつに、そんなことを気にする神経があるとは思わなかった。

 だとしたら、他人に口出しする前にまず己の所業を省みてもらいたいものだ。

 呆れた目で彼を見ていると、彼は不機嫌そうに私とロベルトを交互に見遣る。


「エリザベスとロベルトは、以前婚約していたと聞きましタ」

「ああ、そうだけど」

「どうして、婚約を解消したのデスか? ずいぶん仲がよさそうデスが」


 仲が良いか悪いかで言えば、まぁ悪くはない。

 だが、それと結婚は別の話だろう。


「そんなもの、私がこんなだからに決まっているだろう」

「こんな?」

「男装しているし、彼より強い。普通そんな女は嫌だろう。あと私に王子妃は向いてない。いいか。もう一回言うぞ、私に、王子妃は、向いてない」

「それは勿体ナイ。こんなに素敵なのに、その価値が分からないとは」


 第6王子たるヨウに理解してもらおうとわざわざ2回も言ったのだが、伝わらなかった。やれやれである。


「私を女性として見てくるのはお前ぐらいだよ」

「違います!」


 呆れて苦笑いしていると、ロベルトが口を挟んできた。


「隊長、俺は。貴女を」

「ロベルト?」

「貴女を男だとは思っていません!」

「それは実際のところそうだけれども」


 フォローが下手にもほどがある。


 王家、ロベルトを放っておきすぎではないだろうか。

 今のように他国の王族と関わらせたり、多少なり表に出すつもりがあるのなら、もうちょっと貴族らしいうまい言い回しを教えてやって欲しいものだ。

 殿下と足して2で割って……いや、それは止したほうがいいな。混ぜるな危険な気がする。


「ロベルトもロベルトデス。結婚したくないから、婚約破棄したのでショウ? なのに、どうして今もこうして一緒にいるのデス?」

「それは……」

「悪い噂が立ちますヨ。婚約破棄されたのに、前の男に未練があるト。貴方に弄ばれているト。彼女にとっても不名誉デス」

「お、俺は」


 珍しく怒った様子のヨウに詰め寄られ、ロベルトが答えに窮している。


 ヨウがどういう想像をしたのか知らないが、私とロベルトの婚約解消は非常に穏便なものだ。

 それに、最終的な決断はロベルト自身がしたのだろうが……比重としては私の父の申し入れによるところが大きい。

 私も殿下に頼んで陛下に奏上してもらったのだし、ロベルトを責めるのはお門違いだ。


 ヨウとロベルトの間に割って入り、ため息混じりにヨウをなだめる。


「やめろ、ヨウ。そういう間柄じゃないのは見たら分かるだろ」

「では、どういう間柄デスか?」


 聞かれて、ちらりとロベルトに視線を送った。

 ロベルトはどこか緊張した面持ちで、期待のキラキラを湛えた目で私を見ている。


「弟子」

「一番弟子です!」

「……だ、そうだ」


 訂正された。

 確かに私がここに来て最初の候補生という意味では、一期生ということにはなるかもしれないが……それ、そんなに大事だろうか。


「今は弟子ですが、いつか隊長と並び立つくらい……隊長に勝てるくらい、強くなります!」

「大きな口を利くものだな」


 私が肩を竦めると、ロベルトはまたキラキラを私に突き刺してくる。


 ふと、「待っていてくれますか」の意味を理解した。

 ロベルトの言う「いつか」がくるまで、ここで挑戦を受け付けて欲しいと、そういうことだろう。

 変に期待をさせるのも悪いので、先に断っておく。


「別に、相手してやるのは構わないが。私、いつまでここにいるか分からないぞ」

「え!? お前、ここに就職するんじゃないのか!?」


 おとなしくこちらを静観していたグリード教官が、いきなり素っ頓狂な声を出した。

 他の教官たちもこちらに集まってきて、私の肩を掴んで揺さぶる。


「もう隊長を頭数に入れた人員と予算になってんだよ! 急にいなくなられたら困る!」

「就職するとか一度も言っていませんが」

「冷たいこと言うなよ~!」

「第四もそのつもりだぞ、あいつら」


 それはもう、騎士団の経営や人事サイドの問題なので、私のような一介のバイトには関係ない。

 平和が続いて、騎士団の人員や予算が削られているのだろうか。

 だとしても、バイトが1人抜けた程度でどうこうなるような体制は問題だろう。


 このままだといつの間にか正社員に昇格させられていたとかありそうなので、今後騎士団関連の書類にサインをするときは注意深く確認しようと心に決めた。


前回更新分にも書きましたが、活動報告にちょっとした小話? 番外編? を置いてあります。

今回はクリストファーが出てきます。

例によって本編を読む上では必要ないオマケですが、それでもいいよ、という方はぜひどうぞ。


(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。


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