14.僕にできるすべて(アイザック視点)
アイザック視点です。
教科書に挟まっていた手紙に書かれていたのは、一般クラスの女子生徒の名前だった。
直接話したことはないが、新興の子爵家の一人娘のはずだ。
中身を確認すると、放課後に校舎裏に来て欲しいという内容が書かれている。
僕宛てではない、と思った。
中身の宛名も「愛しい貴方へ」としか書かれていなかったが、確信があった。
クラスメイトにはバートンとの仲を応援されているが、本来僕は女性が近寄ってくるような性質ではない。
そもそも、この教科書は取り違えによってバートンの机の中に入っていたものだ。
何者かが彼女の教科書だと思い手紙を挟み込んだとする方が自然だろう。
だが、だとすると妙な点がある。
バートンへの手紙は「バートン様友の会」なる組織の検閲をもって届けられるルールになっていた。
検閲を嫌ったのではないかと考えることもできるが、手紙の内容はごくシンプルなもので、特段過激とも思えない。検閲では問題にされないだろう。
友の会のルールでは、手紙でバートンを呼び出すことは容認されている。
学内で短時間……つまり、告白のために呼び出すことは検閲があったとしても許可されているのだ。
ダグラスが来てから頻度は減っていたと聞いたが、ここ最近また増えているらしい。
先週だけでも数回、泣いている女子生徒の前で困ったように笑う彼女を見かけていた。
つまりこの手紙には、わざわざ友の会のルールを犯してまで渡す必要性がないのだ。
友の会のルールは厳格だ。まことしやかに「粛清」された生徒の噂を聞くほどである。
そのリスクを冒すだけのメリットが、この手紙にはない。
以上のことを踏まえると、一つの推測が成り立つ。
誰の目にも触れず、知られず、彼女を呼び出す必要があったのではないか。
そしてその理由が、他者には知られたくないような後ろ暗いものなのではないか。
……それが、彼女の身を脅かすようなものなのではないか。
何も起こらない可能性ももちろんある。ただの杞憂であればその方がいい。
だが、もしものことがあった時、僕はきっと後悔するだろう。
だからこそ僕は、僕にできるすべての手段を使って、できるすべての準備を整える。
何をどういう手順で行うのが効率的か脳内で算段を付けながら、手紙を畳んで封筒に戻す。
隣で機嫌よくにやついているバートンを横目で見て、ため息をついた。
人の気も知らないで……いい気なものだ。
今回の更新で30万字を超えました!
20万字時点では「30万字に届くまでには完結」とか言っていたのですが……はて。おかしいなぁ。
完結にはもう少し(しばらく?)かかりそうですが、引き続きあたたかく見守っていただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします!





