4.乙女ゲーム的展開(リリア視点)
笑う時の仕草さえ、いつもと違って見えます。
いつもより口を大きく開けて笑っている気がします。
いえ、きっとそうです。エリ様検定一級のわたしが言うのだから間違いありません。
歯並びの良い歯がまざまざと見えて、それすらエロいのでもうだめです。
意識が持って行かれそうになります。
発禁です。ご禁制です。
「あ、あのですね。ちょっと、顔面がR18なので、もう少し気合いを入れてもらえると」
「あれ? 今もしかして私、悪口言われてる?」
「い、いえその、いい意味でR18なんですけども」
「いい意味とかある?」
わたしにツッコミをくれてから、一拍置いてエリ様がぷっと噴き出しました。
え? 何その顔。そんなに無邪気に笑うエリ様、初めて見たのですが?
スチル。スチルください。後で見返すので。網膜仕事して。
「やっと君の独り言にツッコめるようになった。ずっと我慢してたんだ」
「ず、ずっと?」
「? うん、ずっと。君、独り言が大きいから。独り言以外にも、結構普通に前世の話とかしていたし」
「……え?」
「はは、本当に自覚がないんだね」
一時停止してしまう私を見て、エリ様はまた、おかしそうに笑っていました。
「ほら、教室に戻ろう。リリア」
「うう……ま、待ってください……ちょっと、ショックが……」
行きとは逆に、エリ様に引っ張られて教室に戻ることになりました。
エリ様に注意するために連れ出したのに、目的の半分も果たせないままになってしまいました。倒れるご令嬢が出ないといいのですが。
ていうかわたし、そんなに何でもかんでも口から出ていたんでしょうか。
それではまるで、イタい子みたいじゃないですか?
「ああ、ダグラス。そこにいたのか」
教室に戻ると、アイザック様から声を掛けられました。
珍しい、と思いました。エリ様と3人で過ごすことはそこそこありましたが、あくまでエリ様が中心の関係で、2人で話すことも少なかったので。
「昼休みに生徒会室へ来い。……王太子殿下がお呼びだ」
「お、王太子殿下が!?」
思わず声を上げてしまいました。
隣に立つエリ様はもちろん、クラス中の視線がわたしに集まってきます。
クラスの女の子たちが「何故殿下が?」という目で見てきます。
当たり前です。一応聖女の端くれですが、ただの男爵家の養子のわたしに、エドワード殿下がお声を掛けるなど、本来ありえない事態です。
乙女ゲーム的展開でもない限り。
「え、エリ様……」
助けを求めてエリ様を見上げると、彼女はまったくもって興味がなさそうに、にこやかにわたしに向かって手を振りました。
わぁ、お手振りです。ファンサです。嬉しくないのは何故でしょう。
「行ってらっしゃい」
「い、一緒に、来てくれないんですか!?」
「私、昼休みには昼食をとるという予定があるから」
「わたしもですけど!?」
ダンスパーティーより前だったら絶対に一緒に来てくれたはずなのに、けろりとした顔で薄情なことを言うエリ様。
これがあれでしょうか。釣った魚に餌はやらない、というやつでしょうか。
つくづくひどい人です。でも好き。つれないエリ様もそれはそれで良き。はぁ好き。
ひとしきり悶えてから、思考を戻します。
もとの乙女ゲームのとおりだったら、エドワード殿下が「主人公」を呼び出す事態は起こり得たでしょう。
だけど、おかしいです。
今更、この世界で乙女ゲーム的展開が起こるなんて、どう考えてもおかしいです。
だって、エドワード殿下を含め、攻略対象の4人は。
私の、恋敵なのですから。





