79.ネタばらし
さて。ダンスパーティーも終わり、これでルート分岐も終わったことになる。
友情エンドの場合、この後に待つのは当たり障りのない展開だ。もうほとんど、終わったと言ってもいい。
後に残るのは。
「リリア。聞いてくれるかな、私の……これまでの話を」
ネタばらしだ。
リリアを男爵家まで送る馬車の中で、私は彼女に話した。
前世の記憶があること。
ここが乙女ゲームの世界だと知っていること。
本当は私が、モブ同然の悪役令嬢だということ。
幸せになるために、主人公に攻略されると決めたこと。
最初からそのつもりで、リリアに近づいたこと。
すべて分かったうえで、リリアの気持ちを利用したこと。
かなりかいつまんで話したが、なかなかに長くなった。
重湯レベルの前世とは比べ物にならないほどの密度がある、10年だったから。
リリアは時々驚いたように目を見開いたり、相槌を打ったりしていたが、最後まで聞いてくれた。
そして、少し考えるような仕草をした後、私に問いかけてきた。
「じゃあ、男装も、剣も、立ち居振る舞いも……全部、わたしのため?」
「君のためというか、君に攻略してもらうため、だけど。まぁ、ざっくり言えばそうだね」
彼女の問いかけに、私は頷く。
「君が怒るのは当然だと思う。私はずっと君を騙して、利用していたんだ。このゲームをやりこんでいたプレイヤーだったら、君にも好きなキャラクターがいたはずだろう? 私以外のルートを選んでいたら、きっと君は大恋愛エンドに進めたはず。好きな相手と恋人になって、大聖女の力も手に入れて。末永く幸せに暮らす未来が、そこにはあったはずなんだ。けれど私はその幸せを君から奪った。それも、君に恋していたからじゃない。自分が幸せになりたいという、ただのエゴで、だ」
「ずっとずっと、10年間? わたしと出会うために、わたしに好きになってもらうために、努力してきたってことですよね?」
「まぁ、そういう見方も出来るかな」
肯定すると、リリアがこちらに向かって身を乗り出してきた。
琥珀色の瞳がきらきらと輝いている。
うん?
何だか、予想していた反応とずいぶん違う。
「ひどい!」とか「騙してたのね!」とか言われて、ビンタの1つくらいは食らうんじゃないかと思っていたのだが。
そしてビンタくらいだったら、甘んじて受けるつもりでいたのだが。
「エリ様に自覚がないだけで、それってもう、恋なんじゃないかと思うんです!」
「え? 何、エリ様? いや、リリア? それは違」
「いいえ、恋です。実質、片思いです」
「すぐ実質とか言い出すの、オタクの悪いところだと思うよ」
ふんふんと鼻息荒く力説するリリアに、私は眉間を押さえる。





