69.ヘアピンカーブでドリフト
「CER○Bだし」
リリアがぽつりと呟いた。
何を口走っているんだ、この主人公。何故突然レーティングの話を持ち出す。
絆されそうになった心がヘアピンカーブでドリフトを決めて戻ってきた。危なかった。
頭の中にかかっていた靄が晴れていく。
私の意志とは関係なく、何故だか「彼女を幸せにしなくてはいけない」という気持ちにさせられていた気がする。
これが主人公力というものだろうか。恐ろしい。
身震いしたところで、ふと気配を感じた。
どうしてこんなに近づかれるまで、気づかなかったのだろうか。
「だから、わたし、性別なんてどうでもよくて! バートン様のことが、す」
「シッ」
リリアの唇に人差し指を押し当てる。
リリアが一瞬目を見開き、頬を染めた。
彼女からしてみれば、もしかしたら「私から言うよ」的な展開を期待したのかもしれないが、残念ながらそれは違う。
私は心臓がバクバクと早鐘を打つのを感じていた。肺が窮屈になり、呼吸が浅くなる。背中を冷たいものが伝う。
「静かに」
「え?」
「ゆっくり、こちらに。私の後ろに」
「あ、あの」
そっとリリアの手を引き、じりじりと移動して、後ろに庇う。
私の背に庇われてから、こちらを振り向いたリリアは、きっと私を同じ物を見たのだろう。間抜けな声を出した。
「え?」
そこにいたのは、羆だった。
体長2.5mは優にある。何より横幅が人間の比ではないので、対峙するとその大きさは実測値よりはるかに大きく感じられた。
思わずリリアの顔を確認する。リリアの表情も驚愕一色という様子で、彼女にも予測不能の事態であることが容易に読み取れた。
それはそうだ。私だって羆が出てくるイベントなど覚えがない。
いくらイケメン補正があるからと言って、人間が剣の一本や二本で羆に勝てるものか。
猟銃があったって、近距離戦では勝てないというのに。
「リリア」
恐怖と言うよりほとんどパニックでへたり込んでいるリリアの手に、アイザックに渡された救助笛を持たせる。
「私にもしものことがあったら、これを。みんなが来てくれる」
「え? あ、あの」
「心配いらないよ。君は私が守るから」
リリアを背後に庇って、私は立ち上がる。
どうせ汚れるので、上着を脱ぎ捨てた。
羆は低く唸りながら、ぎらぎらと夕闇の中で眼を光らせ、私を睨んでいる。
正直、興味はあった。
「あなたを襲えるのは羆くらい」だと言われたあの日から。
一度戦ってみたかったのだ。
気になっていたのだ。
私と、どちらが強いのか。
脱ぎ捨てた上着が地面に落ちると同時に、私と羆の勝負……ステゴロの殴り合いが始まったのだった。
1日2回更新週間終了です! 明日からは1日1回更新に戻ります。
シリアスめ(当社比)な展開が数日続きましたが、そろそろいつもの調子に戻るかな? というところです。
感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告等、いつも本当にありがとうございます! 読んでくださっている方がいる、というのが何よりの原動力です。
活動報告のアンケートにお答えいただいた方も、ありがとうございました! にやにやしながら楽しく読んでいます。





