62.天王山
「え?」
「え? まさか、本当にご存知なかったの?」
「じょ、せい?」
リリアは驚愕の表情でしばし固まっていたが、やがて顔色が真っ青になっていく。
私は内心舌打ちをした。しまった。もっと早く出て行くべきだった。
薄々分かっていた。リリアが私の本当の性別に気づいていないことを。
まぁ、当然といえば当然である。誰もそうそう他人様に「失礼ですが性別は?」なんて聞いたりしないのだから。
ほんの少し、2%くらいは勘付いているんじゃないかと思っていたが、やはりそうではなかったらしい。
「わたくしたち、忠告に参りましたの。わたくしたちは何も貴女が憎くて言っているわけではありません。ただ、自分の応援する方とバートン様が結ばれることを願っているだけです」
「一番怖いのは……ここにはいない、『バートン様と私♡』の恋に夢を見ている方々ですわ」
「私たちは穏健派ですのでこうして事前に忠告しているのです。これ以上過激派の『バートン様と私♡』派閥の方に目をつけられたら、貴女、どんな嫌がらせを受けるか……」
リリアに切々と語るご令嬢を横目に、私は思索を開始する。
さて。どうするべきか。
いずれはバレるだろうとは思っていた。
もちろんルート分岐まで気づかずにいてくれたら最高だったが、それはほぼ不可能だろうと私自身も理解している。
バレた時にどうリカバリするか。それが重要である。ルート分岐まであと2ヶ月もない。
ここが私の天王山になるだろう。
大丈夫だ。シミュレーションは何度もしてきた。自信を持って、余裕ぶった笑みを顔に貼り付けて。
小さく息を吸って、吐く。
「やぁ、何の話かな?」
私は、わざと音を立てて芝生を踏みながら、ご令嬢とリリアの前に姿を現した。
「ば、バートン様」
ご令嬢たちが私を見る。何人かが、小さな声で私の名前を呼んだ。
リリアは私の顔を見て、目を見開く。唇が震えていた。
そして一瞬ひどく傷ついたような表情をしてから、彼女は私に背を向けて、走り出した。
「リリア!」
話の分割の都合上(あと作者の都合上)1日2回更新週間中ですが、明日は1日1回更新となります。
代わりに活動報告に小話をアップしておりますので、何卒ご容赦ください。
(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。





