56.まったく、嬉しいことを言ってくれる
活動報告に侍女長視点の小話をアップしています。
それからついでにイラストもアップしてみたので、気が向かれたらご覧ください。
(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。
「リリア、大丈夫だった?」
「は、はい! バートン様が守ってくださったので……」
改めてリリアに問いかけると、少しおびえた様子だったが頷いた。まったく、嬉しいことを言ってくれる。
鍛えていた成果が出せて私としても大満足だ。今夜はお赤飯だな。
「ロベルトも、ありがとう」
「たい……バートン卿なら、一人でも十分だったでしょう」
「ひ、1人でも、ですか?」
リリアがロベルトの言葉に反応する。
ロベルトは先ほどまでの眼光鋭さはどこへやら、また目をキラキラさせて語り始めた。何故お前が自慢げなんだ。
「ああ! いつも訓練場では候補生5、6人一度に相手にされるのが普通だし、腕利きの教官たち3人がかりでも全く歯が立たない。おそらく先ほどの相手程度なら20人いたってバートン卿には敵わないだろう!」
「は、はぁ……」
「いや。リリアを危険に晒さずに済んだのは君たちのおかげだよ。ありがとう」
すごい勢いでリリアに詰め寄るロベルトをやんわり引き離す。
リリアが完全に引いた顔をしていた。
「しかし……」
「どんなに強くても、1人は結局1人だろう。数の利点が生きる場面はどうしたって多い。だからこそ私たちは騎士ではなくて、騎士『団』なんだ」
「!」
ロベルトが目を見開いた。
何となく「私たち」とか言ってしまったが、正確に言えば私は別に騎士ではない。
まぁ、こういうのは雰囲気である。ワンフォアオール、オールフォアワン。大体そんな感じだろう。知らんけど。
「礼を言っているんだから、素直に受け取れ」
「は、はい!」
ロベルトはまたキラキラが突き刺さるような笑顔で頷いた。
一番活躍したのは私だろうが、きちんと他人の力も認める器の大きさを見せておく。
器の小さい男より、器の大きい男の方がモテることは自明である。
あと、ありがとうとごめんねを言える男の方が、女子ウケが良い。
「リリアもびっくりして疲れただろう? どこかで休憩しようか」
「きゅ、きゅうけい!?」
「カフェまでもうすぐだけど、歩けそう?」
「あ、は、はひ、歩けます! 大丈夫です!」
「では行きましょう!」
さりげなくリリアの肩を抱いて歩き出したところ、ロベルトが意気揚々と私たちを先導する。
いや、お前は本当に空気を読んでくれ。どう考えてもここで解散の流れだろう。
「すぐそこだから、もう護衛は大丈夫だよ。君の護衛がさっきの奴らを騎士団の詰め所まで連れて行くみたいだから、一緒に行った方がいい」
「数の利点が生きる場面があるかもしれませんので!」
「…………」
ロベルトの癖に小賢しい真似をする。
指でロベルトを呼び寄せ、耳打ちした。
「……お前、甘いもの苦手だろう」
「俺の苦手なものまで覚えていてくださるとは! 感服しました!」
喜ばれてしまった。まったく意に染まない。
実際のところ、ゲームの設定ではそうだったなと思い出しただけで、彼と好き嫌いについて直接話した記憶はないのだが。
「ケーキが有名なカフェだから、君には合わないと」
「大丈夫です! その店、コーヒーも有名だとフランクから聞きました。俺はコーヒーでも飲んでいますので!」
まったく悪意のない顔で笑うロベルト。本当にただ空気が読めないだけのやつだった。
「エリザベス様」
どうしたものかと思っていると、ロベルトの護衛の1人に小声で袖を引かれた。
「今から事情聴取に同行する者、城に報告に行く者、殿下の護衛を続ける者に分かれます。殿下の警護が手薄になりますので、私どもが戻るまで殿下をお願いできませんか」
「見返りは?」
「今度酒でも奢ります」
「貴方がた、私が未成年だって忘れてますね?」
ついでに公爵令嬢だというのも忘れられている気がする。
リリアとロベルト、護衛たちを見渡し、私はため息をついた。
さっきの連中がロベルト狙いだった可能性もある。何かあったらさすがに寝覚めが悪いし、リリアが気にしてしまうかもしれない。
人というのは死んだら美化されると言うしな。





