54.この程度で挫けてなるものか
「た……バートン卿? どうかされましたか?」
「いや、大捕り物だったんだろう? 怪我人は出なかったのかなと思って」
うっかり一時停止してしまい、ロベルトに気遣わしげに声を掛けられてしまった。
何でもないようなフリをして、それらしいことを言っておく。
「は! それは問題ありません。街の方々にも、騎士団にも怪我人は出ておりません。……ああ、スリの一味は打撲程度の怪我はしたかもしれませんが」
「そうか、よかった。やはり騎士団は頼りになるね。憧れてしまうよ」
「ば、バートン様なら」
「隊長は立派な騎士です! 俺の知る、誰よりも、最高の!」
リリアの言葉に被せるように、ロベルトが大きな声を出した。
女性の言葉を遮るとは、紳士の風上にも置けない振る舞いである。
あまりに勢いがよかったので、私だけでなくリリアも彼を見た。
視線が集まったことでさすがに彼もまずいと思ったのか、ロベルトは声のトーンを一段下げ、慌てた様子で取り繕う。
「あ。ええと、だから……俺は、隊長は騎士になるべきお人だと」
「え――と……ありがとう、ロベルト。じゃあ、私とリリアはこれで」
「あ、お、俺も! お供します!」
さらっと別れようとしたところで、空気の読めない奴が空気の読めないことを言い出した。
何故気遣いが出来て空気が読めない。
リリアから死角になる角度で彼を睨み、視線で「邪魔すんな」を訴えにかかる。
「……君、警邏の途中なんじゃなかったのか?」
「連行に付き添って戻ってきただけなので、この後は五月雨解散でよいと」
「……行くのは女の子が好きそうなお店だからなぁ。君が来ても楽しくないかもしれないよ」
「か弱い女性をエスコートするのも騎士の務めです! 教えてくれたのはたい、……バートン卿ではないですか!」
胸を張るロベルト。確かにか弱い女性と一緒だが、お前より力強い私が一緒の時点で護衛もエスコートも必要ない。
どう考えてもお邪魔虫である。
「国の第二王子に護衛をさせるというのは、どうかな」
「将来俺が騎士になれば普通のことです」
「君の練習に付き合えと」
「最近、訓練場に顔を出してくださらないので」
捨てられた子犬のような目で見られた。何とも情けない顔である。
確かに言われてみれば、リリアと会ったり殿下に付き合わされたりで何かと忙しく、訓練場にはあまり行っていないかもしれないが……そんな顔をしなくても良いだろう。
私よりガタイが良いくせに、うるうるした目で見つめてくるのはやめていただきたい。
リリアがいなかったら、肩を掴んでその顔をやめろと揺さぶっている。
「……わかったよ」
結局私は折れた。
あまり邪険にするのもリリアの手前印象が悪そうだし、仕方がない。
邪魔が入るのは想定内だ。この程度で挫けてなるものか。
「店の前までだぞ」
「はい!」
私の言葉に、ロベルトは嬉しそうに返事をした。
アンケートに回答いただいた方、ありがとうございます!
お話の結末は決まっているので、アンケートの結果でそれが変わるわけではないのですが、番外編とかIF的な小話の参考に……と思って作ってみた次第です。
1週間くらいは置いておくので、まだの方は活動報告からお気軽にどうぞ。





