49.ちなみにその悪役令嬢、私なんですよ
ある夏の日の昼休み、私はリリアに誘われて中庭を散歩していた。
一番日の高い時間帯であるし、日向を歩いているとじりじりと暑い。
そんな中でわざわざリリアが私を誘うということは、何かイベントを起こそうとしている可能性が高い。
中庭のイベントを思い出しているうち、1つ思い当たるものがあった。
確かロベルトのイベントだ。
中庭を2人で歩いていると、仲睦まじそうにしている様子に腹を立てた悪役令嬢がリリアに故意にぶつかって、彼女を噴水に落としてしまうのだ。
しかしリリアを助けようと咄嗟に手を伸ばしたロベルトも一緒に噴水に落ちてしまい、最後は2人してびしょ濡れで笑い合う……というような、ある意味悪役令嬢のアシストが光るイベントである。
リリアがやけに噴水を気にしているのがその証拠だ。
今日くらい暑ければ、多少濡れても風邪の心配は少ないだろう。
ちなみにその悪役令嬢、私なんですよ、という、誰に届くでもない自慢をしておく。
しかし、どうだろう。
ロベルトの場合は悪役令嬢のアシストが望めたが、私の場合それは難しいだろう。
となると、例えば足を躓かせるとかの理由で、リリアが自主的に噴水に突っ込むしかない。
そして私はそれを助けようと手を掴みながらも、一緒に噴水に落ちなくてはならない。
怪我などしてはドキドキどころではないので彼女をうまく抱きとめながらも、噴水には落ちなくてはならない。
びしょ濡れにならなければ意味がないのだ。
簡単そうに見えて、意識してやろうと思うとなかなか難易度が高い。
だいたいリリア程度の女の子なら、ちょっと躓いたところで簡単に支えられてしまう。
その程度で一緒によろけるような柔な体幹はしていない。
というかロベルト、リリア1人すら支えられないのはちょっとお粗末ではないだろうか。
鍛え直しが必要かもしれん。ああ、いや、それはゲームのロベルトの話で、私の知る脳筋ロベルトではないのだろうけど。
リリアもタイミングを図りかねているようで、かなり思い詰めた表情をしている。
なんだ、この緊張感は。
いつだ、いつ動く。
リリアの一挙手一投足に神経を注いでいた私は……そしてリリア本人も。
近づいてきた人影に対する反応が遅れた。
「きゃ」
「リリア!」
いつのまにか眼前に迫っていた人が、リリアの肩に軽くぶつかる。
慌ててリリアの腕に手を伸ばし、引き寄せる。
ざぶん。
水音がした。
……が、私もリリアも、濡れていない。
それどころか噴水に足を突っ込んですらいない。
噴水の中、びしょ濡れで座り込んでいたのは。
「お、王太子殿下!?」
そう、王太子殿下その人だった。
リリアはおろおろしているし、私もその姿を茫然と眺めることしかできない。
何故?
何故、この学園で一番身分の高い人が、噴水なんぞに突っ込んでいるのだろうか。
1日2回更新週間、完走しました! やったー!
来週からは1日1回更新に戻りますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。





