46.思春期は時と場所を選んで発揮してくれ
歩き始めて、またかちりと小さな音がしたかと思うと、今度は風を切る音がした。
飛んできた矢を三本まとめてキャッチし、真っ二つに折って地面に捨てる。
この地域の人はずいぶん密猟者に迷惑していたらしい。先ほどからいくつも罠が作動している。
時折えさの入ったかご型の罠や落とし穴のようなものもあるので、密猟者がうさぎを捕るための罠を仕掛け、その密猟者を捕らえるための罠を近隣の街の住人が仕掛けた、という二重構造になっているようだ。
知らずに旅人が入ってしまったら悲惨だ。
首尾よく罠をかいくぐりながら進んでいたのだが、だんだんとクリストファーが遅れがちになる。
彼も訓練場に通っているので、少なくともリリアよりは体力があるはずだ。
このペースについてこられないのはおかしい。
「クリストファー?」
声を掛けながら歩み寄ると、クリストファーの顔は青白く、脂汗が浮かんでいる。
「どうした?」
「えと、……足が……」
「足? 見せて」
彼が庇うようにして歩いていた右足を、ブーツを脱がせて確認する。
足首の辺りが見て分かるほど赤く腫れ上がり、じんじんと熱を持っていた。
「さっき、罠を避けたときに挫いたみたいで……」
「そういうことは早く言いなさい」
「ごめんなさい……」
ただでさえ俯いていたクリストファーが、さらに小さくなってしまった。
やはり私はお兄様のように優しく叱るのは無理だったようだ。
「……ほら」
何か言えば言うほど弟に泣かれそうなので、私はさっさとしゃがんで彼に背中を見せた。
「……あの」
「乗って。私が負ぶったほうが早い」
「で、でも、その」
クリストファーはちらちらとリリアを気にしている。どうやら恥ずかしいらしい。
彼も思春期。女の子の前でお姉ちゃんにおんぶされるのは避けたいだろうが、そんなことを言っている場合ではない。
思春期は時と場所を選んで発揮してくれ。
「早く」
私が急かすと、クリストファーは渋々私の背に乗った。
余談だが、生まれてこの方「足を挫く」という経験をしたことがない。
前世でもしたことなかったんじゃないかと思う。
そのため「足を挫く」というのは一種のファンタジーというか、少女漫画の世界かそれこそ乙女ゲームの世界で、主人公にのみ発生する特異な現象かと思っていたくらいだ。
いるんだなぁ、本当に。
……こういうのは主人公の役回りじゃないだろうか。





