45.イケメン攻略対象補正の成せる技
投げた小石が、銃弾の軌道をそっくり辿って飛んでいく。一拍置いて、ギャッと小汚い悲鳴が聞こえた。
狙い通り、デッドボールだった。
「よし」
まだ意識があるかもしれない。もう一発いっておこう。
屈みこんでもう少し大きい石を探していると、石を投げ込んだ茂みの方から人の声が聞こえてきた。
訛りがきつくて何を言っているのかは聞き取れないが、声からして4、5人はいそうだ。
「先輩!」
「人数が多そうだ。森に入って撒こう」
リリアの手を取って、草原を突っ切る。たいした威力でないとは言え、わざわざ的になってやる必要はない。
後ろを振り向くと、私たちが立っていたあたりで小さく土煙が上がっている。
うさぎを抱いているリリアの顔色が青くなっていた。ゲームではアイザックの頭脳で乗り切ることが出来たが、今ここにアイザックはいない。
私は正直負ける気はしていないのだが、リリアは不安になっていたっておかしくない。
「バートン様、さっき、じゅ、銃弾が……!」
と、思ったら違う心配をしてくれていたらしい。
「わ、わたしたちを守って、お怪我を……」
リリアはぜぇはぁ息を切らしながら、そっと私の左腕に触れてきた。
森の中に分け入ったところで、リリアのために少しスピードを緩める。
「大丈夫。運よくボタンに当たったから、何ともないよ」
答えてから、しまった、と気づいた。
これは、リリアを庇って肩に怪我をしたアイザックへの台詞だ。
怪我をしておいたほうが、イベント上都合がよかったかもしれない。
ふと気づいたのだが、現在のアイザックは剣術の稽古も頑張ってはいるがその腕前は平均以下で、身体能力も高くない。
リリアを庇って銃弾をかわすような芸当が出来るとは思えなかった。
ゲームの中では、おそらく相手が狙いを外したのだ。
これがイケメン攻略対象補正の成せる技だとしたら、その補正のない私は……イベントをなぞろうと思ってわざと銃弾を食らっていたら、普通に死んでいたかもしれない。
先に思い出さなくてよかった。怖い怖い。
森の中を早足で歩いていると、ほんの僅かに金属の触れ合うような音がした。
「クリストファー!」
叫んで、クリストファーの腕を強く引く。彼は咄嗟に横っ飛びして、地面に倒れこんだ。
クリストファーが足を下ろしかけていた地面で、ばくんとトラバサミが空を噛む。
リリアが驚いて悲鳴を上げた。
「きゃっ」
「これは、うさぎ向けにしては大きすぎるね……密猟者を捕らえるための罠かな。大丈夫かい、クリストファー」
「は、はい。大丈夫です」
クリストファーも顔を青くして、冷や汗をかいている。
「気をつけて進んだほうがよさそうだ」
私の言葉に、二人とも真剣な顔で頷いた。リリアに抱かれたうさぎはのんきな顔で、鼻をひくひくさせていた。





