41.攻略対象揃い踏み
「……どうしてギルフォードは隊長に担がれて……?」
「さっきロッカーに荷物を取りに行こうとして間違えて窓から出ていきかけたからだ」
「ば、バートン様、力持ちですね……?」
授業中はノートと顔が近いくらいで大人しかったのだが、昼休み早々にやらかしたのでもうアイザックは担いで移動することに決定した。
いつもはアイザックが私の世話を焼いてくれる方だが、逆になってみてそのありがたみに気付く。
アイザック、ものすごく面倒見が良いらしい。私には誰かの面倒を見続けるのは無理だ。
「たい……バートン卿、俺もご一緒してもよろしいでしょうか!」
「構わないけれど……行こうか、リリア」
「は、はい!」
リリアは黙って担がれているアイザックを横目にチラチラ見ながら、隣に並んでついてきた。
ロベルトも反対側に並ぶ。
最近、妙にロベルトがまとわりついて来る気がする。殿下が帰ってきて公務代行から解放されたからだろうか。
アイザックは私の肩の上ですっかり意気消沈していた。あと一歩で窓から転がり落ちるところだったのだから、こちらとしては感謝してほしいくらいだ。
食堂に着いたところで、彼を降ろしてやる。食事をする場で靴が高いところにあっては周囲の迷惑になるからな。
「アイザック、私の服の裾でも掴んでついてこい」
「……分かった」
担がれるよりはいいと思ったのか、アイザックは渋々頷いた。
……が、一瞬目を離した隙に手を放し、間違えて他の女子生徒の服の裾を掴んでいる。
「ロベルト、回収してきてくれ」
「は! 分かりました!」
「ん? お前、誰だ?」
アイザックが女子生徒に顔を近づけて覗き込んでいる。相手のご令嬢は赤面して一時停止してしまった。
アイザックは殿下と違って自分の顔の良さに自覚がないタイプだ。
自分の顔の威力を理解していない上に、今は眼鏡がないことで――一部の宗派の方相手を除いては――破壊力が増している。
ロベルトに回収を任せて、私はリリアと一緒に席取りに向かった。
やれやれ。やっと二人きりになれた。
「あ、先輩!」
息つく間もなく、クリストファーがこちらに気づいて駆け寄ってきた。
空気の読めない弟である。
「ぼくも一緒に食べていいですか?」
聞きながら、返事を待たずに私の隣にお盆を置く。
アイザックの回収を終えたロベルトも戻って来た。
「バートン卿、Aランチなんですね! さすがです!」
いつも通り尊敬のキラキラを飛ばしてくるロベルト。
もう何でもいいんじゃないか、お前。
リリア、人見知りなせいで人が増えるとどんどん霊圧が消えていく。
縮こまっている彼女に声を掛けようとしたとき、ぽんと肩に手が置かれた。
「賑やかだね」
穏やかに優しく笑う王太子殿下が、こちらを見下ろしていた。
おお、攻略対象揃い踏みである。
リリアを含め、登場キャラクター全員が集まったのを見るのは初めてかもしれない。ゲームのパッケージみたいだ。
こうして改めて見ると顔面偏差値がものすごいことになっている。
すっかり萎縮しているリリアを横目に、ふと思った。
昨年まで、こんなに攻略対象が集まってくるようなことはなかった気がする。当たり前だ。主人公がいなかったのだから。
主人公が現れた途端、こうして攻略対象たちは彼女を中心に集まってくる。まるで花に集まる蝶のようで……そして、乙女ゲームのようだった。
ゲームの中に、こんな風に食堂に一同が集まるような共通イベントは存在しない。
最近の出来事を思い浮かべてみる。生徒会室、剣術大会、下校イベント。
私とリリアが二人きりになる機会が邪魔され、どれも攻略対象の誰かが割って入る格好になっている。
見たところ、彼らの中にリリアへの好感度がそれほど高い者はいないようだが……彼ら自身は無意識なのかもしれない。
私という異分子と主人公が結ばれることを防ぎ、あるべき形に戻ろうとしている世界の働きなのかもしれない。
これがこの世界の……乙女ゲームの強制力だろうか、と、私は見えない世界機構へ思いを馳せた。
まぁ、世界機構が相手だとして、負ける気はさらさらないのだが。
今日で更新を初めて3カ月が経ちました!
物事を長く続けるのが苦手なタイプなのですが、3カ月も休みなく毎日続けて来られたのは、応援してくださっている方がいるからこそと思います。感想、いつもとってもとっても嬉しいです!
ポケ○ンの数151を目標に進んできたのですが、気づけばその10倍……遠いところまで来たものだなぁという感じです。しみじみしてしまいました。
どうでもよい話なのですが、作者、さっき自分の眼鏡を踏んで壊しました。たぶん呪いです(´・ω・`)
物語も後半戦、これからも頑張ってまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします!





