37.こういうのは効率の話じゃない
「ふ、降ってきちゃいましたね……」
「朝から降りそうだったからね」
校舎を出たところで、傘を差す。リリアも自分の傘を差して、私の隣に並んだ。
「今日はうちの馬車で送るよ」
「えっ、やった」
言いかけて、はっとリリアが自分の口を塞いだ。送っていくだけで喜んでもらえるとは、送り甲斐があるというものだ。
「あ、ありがとう、ございます」
頬を染めて、リリアが俯く。だいぶ普通に接してくれるようになったと思うのだが、すぐ俯いてしまうところは変わらない。
歩きながら、下校イベントはゲームにもあったなと思い出した。
イケメンというものは一緒に帰るというだけでイベントになってしまうらしい。改めて考えるとすごいことだ。
そういえば、登校イベントがある乙女ゲームも多いが、このRoyal LOVERSにはなかった。
たいていの移動が馬車なので、偶然一緒になる、というのが起こり得ないからだろうか。
万が一食パンをくわえて攻略対象とぶつかろうものなら、人対馬車のただの交通事故である。
ばしゃばしゃと背後から足音が近づいて来る。振り向けば、傘を持たないアイザックがこちらへ走ってきたところだった。
「悪い、入れてくれ」
「いいけれど、君、傘は?」
「出掛けに忘れてきたようだ」
アイザックは私の傘に入ると、眼鏡を外して忌々しげにレンズについた水滴を拭っている。
私とリリアは「その手があったか!」という顔になってしまった。
何を2人してちゃんと傘を持ってきてしまっているのだ。相合傘チャンスを逃してしまったではないか。
「じゃ、じゃあアイザック様はわたしの傘、使ってください! お2人では狭いでしょうから!」
「お前はどうするんだ」
「わ、わたしは、その、バートン様の傘に入れていただきますので……」
リリアの言葉に、アイザックが怪訝そうに眉根を寄せた。
「いや、それには及ばない。肩の高さから考えても僕がバートンの傘に入る方が効率が」
「いいや、こういうのは効率の話じゃないぞアイザック」
傘の下でやいのやいのとやっていると、アイザックの手からぽろりと眼鏡が落ちた。
足元に眼鏡が転がる。
「あ、リリア。ちょっと待っ」
「え?」
ぱき。





