31.起きないなら起こせばよい
リリアと約束をした日、教会に足を運んでみれば、まだ朝の時間帯にもかかわらずかなり賑わっていた。
食事を配っているところもあるようで、ふわりと食欲をそそる匂いが届く。
こういう場合も、炊き出しというので正しいのだろうか。
「やあ、リリア。今日はお招きありがとう」
「い、いえ、そのあ、あの、こちらこそ」
「そのワンピース、可愛いね」
私が言うと、リリアは頬を染めて俯いてしまう。
出会い頭にとりあえず女性を褒めるのは貴族の礼儀なので、そのくらいは笑顔で躱せるようになってもらいたいところだ。
いや、一生懸命口説いている側としては別に都度初々しい反応をしてくれたっていいのだが。
今日のリリアは、ふわりと裾が広がった形の、ひざ丈の白いワンピースだった。
白いワンピースというのはつくづく、美少女と幽霊にしか許されない衣服だなと思う。
「き、今日は、これもあるんです」
リリアがさっと手に持ったヴェールを見せた。なるほど、それを被るとシスターっぽくなる気がする。
リリアの案内で、教会の中を見て回る。バザーを眺めたり、ステンドグラスに見惚れたり、聖歌隊の歌を聞いたり。
頻繁に出入りしている教会だからか、リリアも普段よりリラックスしているように見えた。充実したデートである。
だが、イベントらしいことは起こらない。リリアも途中からだんだんとそわそわし始めた。
バザーを手伝うよう声を掛けられることもなかったし、孤児院の子どもたちに捕まることもない。
いや、壊すのが恐ろしくてパイプオルガンには近づいていないのだが……そろそろそちらに足を伸ばさないといけないだろうか。
一瞬、ふっと弱気が頭を掠める。
もしかして、私が攻略対象ではないから……この世界に攻略対象として認識されていないから、イベントが起きないのだろうか。
しかし、私はその弱気を振り払った。起きないなら起こせばよい。今までもそうして来たし、これからもそうしていく。
世界などに頼っていては、それこそモブ同然の悪役令嬢に逆戻りだ。
さて、どうやってイベントを起こそうかと考え始めたとき。
「聖女様! ちょうどいいところに」
駆け寄ってきた男がリリアに声を掛けた。服装からして神父だろうか。
「神父様」
「すみません、少し席を外さなくてはいけなくなりまして……懺悔室の方をお願いできないでしょうか」
「懺悔室?」
「聖女様に聞いていただけるとあれば、迷える子羊たちもさぞ救われるでしょう。対応の仕方は中に紙が貼ってありますので」
私とリリアは顔を見合わせた。
時々じわじわ改稿しているので、台詞が増えていたりする話もあります。
読み返して見つけてもらえたら嬉しいです。





