26.「お前、俺のモノになれ」
観客席を見て回り、リリアとクラスのご令嬢たちと合流する。
「バートン様も応援して差し上げて!」と謎のリクエストがあったので野次を飛ばしたらアイザックに睨まれた。
アイザックは案の定、1回戦で敗退していた。
クリストファーは2回戦に進んだが、そこで当たったのがうちの訓練場でも指折りの候補生だったので惜しくも2回戦止まりとなった。
「あいつ、また上手くなったな」
「フランクですか? 確かに今日は動きのキレもいいですね」
「フランク先輩は今年の優勝候補と言われていますのよ」
ロベルトと話していると、近くにいたご令嬢が教えてくれた。
なるほど、先輩と言うことは最後の剣術大会か。気合も入るわけである。
「お噂では、優勝したら想い人に交際を申し込まれるおつもりだとか……」
「きゃー! ロマンチックですわ!」
盛り上がるご令嬢たち。やれやれ。女の子というのはいつの世も、こういう話が好きなものらしい。
剣術大会で優勝した者は、1つ何でも願い事をすることが出来る、という慣習がある。
ご令嬢たちの話にあるような王道の恋愛系の願いもあれば、「来年は俺と決勝で戦え!」とかいう熱い少年漫画系の願い、先生に向かって「テスト簡単にしてください!」というウケ狙いの願い等、年によってさまざまと言うことだ。
ちなみに、「みんなの前でお願いできる」というだけで、叶うかどうかは別問題である。
「テスト簡単にしてください!」の年はテストが例年より難しかったので、優勝者が後からタコ殴りにされた……、という噂がまことしやかに語り継がれているくらいだ。
この剣術大会、ゲームではロベルトが優勝する。
通常は「願い? チッ、くだらない。俺に構うな。以上」みたいなつんけんしたコメントで終わるのだが、好感度がかなり高い状態で剣術大会を迎えた場合のみ、台詞が変わってスチルが見られる隠しイベントがあった。
ロベルトは観客席の主人公に剣の切っ先を向け――これが願い事をする際のルールらしい――こう言うのだ。「お前、俺のモノになれ」と。
つい、隣にいるロベルトの顔を見てしまった。こみ上げてくる笑いをポーカーフェイスの下で必死に噛み殺す。
似合わない。そういえば俺様キャラだったなと久しぶりに思い出した。
ゲームの中とはいえ……そして記憶の中のものとはいえ、知り合いのそういうところを見るのは、どうも気恥ずかしいというか、むずむずするものである。
きゃー! と黄色い歓声が上がった。顔を上げると、試合場に王太子殿下の姿がある。ちょうど試合が終わり、殿下が勝ち進むことが決まったようだ。
ああなるほど、と私は理解した。在校生挨拶のことを思い出す。
ここは乙女ゲームの世界だ。その舞台で「優勝」なんて華々しい栄誉に輝くのが、名もなきモブであるはずがない。
いや、モブにだって名前はあるのだが。
私は心の中でフランクに合掌した。おお神よ、彼とその想い人に幸多からんことを。





