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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第3章 学園編 2年目

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23.投げキッスとともに上がる黄色い歓声

「ば、バートン様! が、がが、がんばってくだひゃい!」

「ありがとう、リリア」


 待ちに待った剣術大会当日。

 しゃちほこばったリリアの応援を受けて、私は余裕たっぷりに微笑んで見せた。

 そうそう、これである。こういう展開が必要だったのだ。青春学園モノっぽくてとても良いではないか。


「私が勝ったら、その勝利は君に捧げるよ」


 リリアに向き直り、一番盛れる角度でウインクを投げた。


「だから、しっかり見ていて」

「ひゃ、ひゃい」


 ぽわぽわと瞳の中にハートマークを浮かべるリリアと別れ、即席の観客席の間を抜けて会場の中心を目指す。


 ぐるりと観客席を見渡すと、だいたい女子生徒は私の髪の色である金のポンポン――あれの正式名称は何なのだろう。この国の物はビニール製ではなくリボンで出来ていた――だったり、私の名前を書いたパネルや横断幕を持っている。


 男子生徒には、ロベルトの瞳の色である若草色の鉢巻きを巻いていたり、旗を振っている者もいる。ロベルト、意外と男子から人気のようだ。

 まぁ、モテ倒している私への嫉妬から「いっちょかましたれ!」という気持ちでロベルトを応援している男子生徒もいそうだが。


 というか、エキシビションが本番のような力の入った応援具合だった。


 歩いていると、ロベルトの名前を書いた横断幕を広げている一団を見つける。

 見知った顔だと思ったら、案の定訓練場の候補生たちだった。


「お前たち、私を応援しなくていいのか?」


 からかいまじりに声を掛けてみると、候補生はきょとんとした顔で答えた。


「え? だって隊長、応援しなくても勝つじゃないですか」

「それもそうだな」


 一言で納得してしまった。

 それは確かに応援するまでもない……というか、応援し甲斐がないかもしれない。

 そう思うと、応援してくれるリリアやご令嬢たちにはよくよく感謝をしないといけないだろう。


「まぁ、ロベルトがこっち側にいたら、隊長を応援しろとか言いそうですけど」


 言いそうだった。

 候補生たちとともに苦笑いしてしまう。


「まぁ、負けるにしろ……俺たちぐらいはあいつを応援してやらないと、と思いまして」


 な、と顔を見合わせる候補生たち。広げた横断幕には「派手に散れ」の文字が躍っている。それは応援か?


「あいつ、いい奴なんで。馬鹿だけど」

「すっげー頑張ってるんで。アホだけど」

「ですから、隊長の応援は出来ません! 申し訳ありません!」


 清々しい笑顔で言ってのける候補生たちに、私もつられて笑う。

 誰も、彼が第二王子だから、などとは言わなかった。ロベルトはまともな友情を築いているらしい。


「はは。野太い声援はこちらから願い下げだ」


 候補生たちの「そんなー」という不満げな声を背中に受けながら、私はまた歩き出した。

 通りすがりに、ご令嬢たちへのファンサービスも忘れない。


 会場の中心、試合場に降り立つ。

 反対側からロベルトが歩いてくるところだった。

 どうやら本当に山籠もりしていたらしい、何となく薄汚れている。護衛の騎士たちの苦労がしのばれるな。


 まぁ、時間通りに来たのでいいだろう。これでもし試合にも遅れて来るようだったら、すわ巌流島作戦かと思うところだった。

 ロベルトは巌流島も宮本武蔵も知らないだろうが。


 準備されていた模造剣を手に取る。

 もちろん刃は潰されているが、金属製だ。ぶつかり合うと派手な音が出るので、観客にも臨場感が伝わるようにという配慮だろう。


 所定の位置につく。ロベルトと目が合った。

 いつものキラキラはすっかり鳴りを潜めて、代わりに真面目くさった空気がピンと張りつめている。


 会場の歓声が大きくなった。見ている方もボルテージが上がってきたようだ。

 ロベルトは突っ立っていたが、私は手を振って歓声に応じた。投げキッスとともに上がる黄色い歓声が何とも心地良い。

 一通りファンサービスを終えた後、ロベルトに向き直る。


 一度目を合わせてから、私とロベルトが一礼する。途端に、会場が静まり返った。

 審判の騎士が片手を上げる。それを合図に、互いに剣を構えた。


「始め!」


 先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂のなか、審判の声がやけに大きく響いた。


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