16.よそ行きの王太子スマイル
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「そうか、きみが……ダグラス家の養子の」
「は、はひっ!」
「驚いた。ついこの前まで庶民だったのだよね? さすが、公爵家の『お友達』の指導が素晴らしいと見える」
「そうでしょう」
私は得意げに胸を張る。
これでも公爵家の端くれ、礼儀は嫌というほど叩き込まれて来たのだ。淑女の礼も臣下の礼も、騎士の礼までなんでもござれだ。
もちろん、リリアが一生懸命特訓をしたからこそのお褒めの言葉である。
微笑みながら彼女に目を向ければ、リリアもちらりと私を見上げた。
殿下の物言いが回りくどすぎて、褒められたことに気付いていないらしい。
「リリア。とても素晴らしい挨拶だったよ。殿下も褒めてくださっている」
「え? あ、そ、そう……なのですか?」
頭を撫でてやると、リリアが恐る恐ると言った様子で殿下の顔色を窺う。
「……もちろんだとも」
殿下はいつもの王太子スマイルを貼り付けたよそ行きの笑顔で頷いた。
その微笑みに、リリアの肩がびくっと震える。
おっと、まずいまずい。リリアがまたあのお綺麗な顔にあてられてしまう。
そっと彼女の肩に手を回し、意識をこちらに向けさせる。
「ほらね。ふたりでたくさん練習した甲斐があったろう?」
「ふたりで?」
あえて「ふたりで」を強調して言えば、リリアの頬がぽっと赤くなる。
そして私を見上げて嬉しそうにはにかんだ。ふにゃりとはにかむと、またたいそう可愛らしい。
私がやけに強調するものだから、殿下も気になったのか聞き返して来た。
「私の家で、ふたりで特訓したのです。リリア嬢はとても一生懸命で、教える私もつい熱が入ってしまいました」
「きみの家で?」
「はい」
「……きみの部屋で?」
「? いえ、サロンですが」
私がそう答えると、殿下はどこか勝ち誇ったようにふんと鼻を鳴らした。
「それはそうか。きみの私室はひどく殺風景だからね」
突然部屋を貶された。年頃の令嬢の部屋をつかまえて殺風景とは、ひどい言われようだ。
私としては殿下に渡された品物たちでずいぶん賑やかになったと思っているのだが。
「……ええ。あまり物を置かない主義なので」
笑顔を崩さない殿下に、私もにっこり笑って応じれば、間に挟まれたリリアが狼狽えているのが見えた。
急に攻略対象同士がバチバチ火花を散らしはじめたものだから、何のイベントが始まったのだろうと思っているのかもしれない。
「おっと。殿下をいつまでもお引き留めしてはいけませんね。さぁ、行こう、リリア」
「あ、は、はい!」
殿下に一礼し、リリアの肩を抱いたまま踵を返す。
「待ちたまえ」
……が、殿下に肩を掴まれて、引き留められた。
「どうせこのあとたいした予定もないだろう? 少し手伝ってくれないかな?」
「え?」
「ちょうど、人手が欲しかったんだ」
殿下はまたにっこりと笑っていた。よそ行きの王太子スマイルに、何となく嫌な予感がした。
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やっと殿下も帰ってきました! 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。





