14.30点満点でですか?
それから、私とリリアは時折裏庭のベンチで過ごすようになった。
アイザックやロベルトの邪魔が入らないので、私としては非常にありがたい。王太子殿下様々である。
……まぁ、クリストファーが乱入することはあるのだが。
その日も二人で話していると、背後に気配を感じた。
次いで、砂を踏む音がする。咄嗟に立ち上がった。
視界の端に、不思議そうな顔で私を見上げるリリアが映る。
「……リジー?」
聞き覚えのある声がした。はて、この声は。
「リジー!」
振り向くと、両手を広げた何者かが私に抱きつこうと腕を広げているところだった。
無意識のうちに体が動く。
その腕を躱して背後に回り込み、その腕を捻り上げ……ようとして、その何者かが王太子殿下であることに気づいた。
これはまずい。王太子の腕を捻り上げたら、さすがに怒られるどころの騒ぎではない。
すんでのところで踏みとどまり、そのまま背後をすり抜けて対面に戻ると、殿下の両手をぎゅっと握って笑いかけた。
「これは殿下! お久しぶりです」
「うん? 気のせいかな? 今何か不穏な気配を感じたのだけど」
「気のせいでしょう」
必要以上ににこやかに笑って、これ以上の追及は無用と言外に伝えながら、目の前に立つ殿下の様子を窺う。笑ってはいるが、誤魔化しきれたかは分からない。
殿下が西の国に行っていたのは4カ月程度だったと思うが、背が伸びた気がする。
踵を抜いたら私の方が低いかもしれない。男子三日会わざれば括目してなんとやら、だ。
最後に見た日に髪を切っていたが、さすがにそのときの散切り頭のままのわけもなく、毛先がずいぶん軽く整えられていた。
銀糸の髪の透明感が際立っていて、ゲームの時からその髪型でしたっけ? という感じの仕上がりだ。
しかし顔だけでなく全体像を見てみると、僅かに違和感を感じる。
制服ではなく正装していることもおかしいが、何だか、身体つきが少ししっかりしたというか、日に焼けたというか。
元の顔がお綺麗なだけあって繊細な雰囲気は失われていないが、今にも消えそうな儚さのようなものが薄くなっている気がする。
病気が治っただけで雰囲気まで変わるものかと少々驚いた。
「……リジー」
呼びかけられて、殿下の顔に視線を戻す。笑顔とも泣き顔ともつかない顔をしていた。
いつの間にか、私の手が握っていたはずの殿下の両手に包み込まれているのに気づく。
久しぶりに学園に来て見知った顔を見たものだから、生還の喜びを実感した……というところだろうか。
彼自身は、死ぬわけはないなどと知らずに、治療へと旅立ったわけだし。
「戻ってきたよ。君のところへ」
「はぁ」
「何か気の利いたことの一つでも言ったらどうなの?」
会って早々、無茶ぶりである。
逡巡してから、私は騎士の礼を取った。
「お帰りなさいませ、王太子殿下。国民一同、殿下のご帰還を心よりお待ちしておりました。ご無事で何よりです」
「30点」
「30点満点でですか?」
「100点満点で、だ」
無茶ぶりな上に、点数が非常に厳しかった。とんでもない上司である。
もう少しゆっくりしてきてくれてもよかったのだが。
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