表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第3章 学園編 2年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/598

13.攻略対象というのはいい商売だ

「ありがとう、いただくよ」

 手に取ったクッキーを齧る。軽い歯ざわりのクッキーは口の中でほろりと解け、バターの風味が広がった。

 甘さは控えめで、素朴でどこか懐かしい味がする。


「すごくおいしいよ。ふふ、いくつでも食べられちゃいそうだな」

「あ、わ、た、たくさんあるので! よかったら!」

「本当? 嬉しいな、独り占めだ」


 笑いかけると、リリアの顔がぽっと赤くなった。

 おいしいものが食べられるし、微笑んだだけで喜んでもらえるし、攻略対象というのはいい商売だ。


 ふと、背後に気配を感じる。


「わぁ、おいしそう。これ、リリアさんが?」

「……クリストファー」


 リリアとふたりきりのひと時に、聴き慣れた声が割り込んできた。


「く、クリストファー様、ご機嫌よう」

「こんにちは、リリアさん」


 きちんと挨拶をしたリリアに、にこりと人懐こい笑顔で返事をするクリストファー。


「こんなところで、どうしたんだ?」

「お散歩してたら、先輩の姿が見えたから。ねぇ、ぼくにもひとくち、分けてください」


 あーん、と鳥の雛のように口を開けて見せる。

 やれやれ、見た目はすっかり大人びてきたというのに、変なところがまだ子どもだ。

 苦笑しながら、口にクッキーを放り込んでやる。


「んむ。……んん! バターの風味が効いてて、とってもおいしいです!」

「あ、あのー」


 リリアが挙手していた。

 しまった。せっかくもらったものをいつもの習慣で分け与えてしまった。

 機嫌を損ねただろうかとはらはらしたが、彼女は不思議なものを見るような顔で私とクリストファーを見つめていた。


「お、おふたりは、どう、いった関係で……?」

「え?」

「あっ、い、いえ、すみませんすみません、す、すごく仲がよさそうだったから、その」


 私は一瞬答えに窮した。

 確かに入学したばかりの後輩と先輩、という距離感ではなかっただろうが、ここで「弟」と紹介していいものだろうか。


 「先輩」に呼び方を変えてまでこの世界が維持しようとした、クリストファーというキャラクターの根幹に関わる事柄である。

 ここで私が言って、いいものだろうか。


「あれ? 先輩、話してないんですか?」


 クリストファーが、目をまるくして私を見る。

 私が苦笑して誤魔化すと、彼は今度はリリアに向き直って、笑顔で言った。


「ぼく、先輩の弟なんです」


 クリストファーが何故か自慢げに胸を張る。


「えっ!?」

「養子ですけどね」

「そ、そう、なんですね……」


 リリアはしばらく私とクリストファーを見比べていた。

 俯いて、何事かをぶつぶつと――今回は、小さな独り言だった――呟く。

 そしてぱっと顔を上げて、私に言った。


「い、いいなぁ! わたし、一人っ子だから。兄弟がいるって、羨ましいです」


 リリアの台詞に、私は舌を巻く。これは王太子殿下との会話で主人公が言う台詞だ。

 非常に上手に軌道修正してきたなと思う。

 さすが、勉強に全振りすればアイザックをしのぐ頭脳を持つ主人公。もともとのポテンシャルがチート級だ。


 この台詞に、王太子殿下はどこか陰のある表情で「そうでもないよ」と返すのだが……

 お兄様の顔を思い浮かべる。目の前の弟を見る。

 もし私がそんなことを言おうものなら、罰が当たるだろう。


「うん、いいものだよ、兄弟って」


 私は心の底から、そう答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
[気になる点] 小さな独り言の内容気になるぅ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ