11.背景に宇宙を背負った猫のような表情
愛想がなくて取っつきにくく、ダンスの授業ではご令嬢の足を踏んで遠巻きにされていた彼が、今はたくさんのご令嬢に囲まれて、勇気を出せと激励されている。
男子生徒たちも、遠くからはらはらした様子で私たちを見守っていた。
近寄り難かったはずの彼が、私の知らないうちに随分愛されキャラになっていたようだ。
赤い顔を必死になって隠そうとするアイザックに、思わずにやにやしてしまう。
ダンスのレッスンで無理矢理ターンさせてやった時を思い出した。
いや、アイザックにしてみれば地獄といって差し支えないほど恥ずかしいのだろうけど。
彼の友達としては、少々嬉しく、かなり面白い。
「ぼ、僕は!」
アイザックが、もはややけくそといった様子で声を上げた。
「学年で一番、勉強が出来る」
「知ってるよ」
「だから、お前にも、ダグラスにも、効率的に勉強を教えられるはずだ」
まずは売り込みから入るところが、非常に彼らしいと思った。笑いが噛み殺せなくなる。まぁ、それほど噛み殺す気もないのだが。
「ダンスも、男性パートを練習した。もうほとんど完璧に踊れると思う。……最初の練習相手は、バートン。お前が良い。お前はダンスが上手いし、僕の師でもあるから」
アイザックが、横目にちらりと私を見上げる。
もちろん、私は彼のこのお願いを跳ね除けることだってできる。
しかし、アイザックにここまで言わせて断ったら、クラス中のご令嬢の反感を買うだろう。それは私の本意ではない。
リリアだってそうだ。私が嫌われるだけならいざ知らず、これ以上鋭い視線の標的になるのは避けたいはずだ。
2人きりのお勉強会イベントもダンスの稽古イベントももう熟したのだし、今からアイザックが入ってきたとて問題はない。
2人きりにこだわるよりも、ここで友達を大切にする姿勢と懐の広さを見せておくほうが、私の株は上がるだろう。
ご令嬢たちから見ても、リリアから見ても。
得てして、同性の友達がいない男というのは、異性にもモテないものだ。
「すまない、アイザック。君がそんなに寂しがり屋だとは、知らなかったんだ」
茶化してみると、ぎろりと睨まれた。ご令嬢たちに囲まれていなければ、彼はとっくに逃げ出していただろう。
「勉強会だけど、リリアはとても飲み込みが早くてね。私より頭のいい先生が必要だと思っていたところだったんだ。君の力を借りられたら、私も助かるよ」
ね、とリリアに微笑みかけると、リリアも小さく頷いた。
「ダンスだって、言ってくれればいつでもお相手するよ。……水臭いな。友達だろう? アイザック」
私がにやにや笑いを隠しもせずに手を差し出せば、彼は赤い顔で不満げに私を睨みつけたあと、やがて観念したように私の手を握った。
わっとクラス中から拍手が巻き起こる。アイザックはぷいと顔を背け、私は片手を上げてそれに応えた。
一人、リリアだけは拍手をしながらも、背景に宇宙を背負った猫のような表情をしていた。それはそうなるだろうな、と思った。
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