第06話 料理勝負開始!
料理勝負の日は五日後に迫っていた。
ラーパスの策略のせいで、調理器具も無しだ!
「早くなんとかしねぇと、料理勝負の日が来ちまう!」
俺はランゼルフ王国中央市場に急いで、なけなしの金で安い食材や調理器具を買いに出かけた。
「異次元デパ地下」からの食材、調理器具の出し方がいまだに分からなかったからだ。
◇ ◇ ◇
「キャベツ一つください。できれば安くて新鮮なやつ」
「……ああ」
ん? 俺は市場の八百屋の店主に話しかけたが、何かおかしいなとは思った。
俺を眉をひそめて一瞥したからだ。
すると店主は店頭のキャベツを手に取らず、クズ箱の中のキャベツを俺に手渡してきた!
「ほらよ、これならお前のようなヤツにも買えるだろ?」
うわ! 変色して黄緑色になってるじゃねえか!
なんだ? この八百屋、変なヤツだな。
「『お前のようなヤツ』……? 俺のことを知っているのか? まさかな……」
他には小さいトマトを三個だけ、何とか買えた……。
今度は魚屋に向かうことにした。
――昨日、アイリーンが食材を提供すると申し出てくれたが、俺は断った。
俺は自分の力で、この勝負にケリをつけなければ気が済まない……!
「一番安い魚……そうだな、タラをください。身のふっくらしたやつだ」
すると今度は魚屋の店が、俺を見て眉根を寄せた。
「……あ、ああいいぜ。買ってけよ」
すると店主はやたらと小さいタラの切り身を出してきて、俺に突き出した。
「お、おっちゃん。そうじゃないんだ。俺が欲しいのはこれ――」
俺が店の店頭に置いてある、ふっくらしたタラの切り身を指差そうとすると――。
ガシッ!
店主が鬼の形相で俺の手首を掴んだ!
「それは買わせられねえ! お前だけにはな!」
「お、俺だけ? ど、どういう意味だよ?」
「『あるお方』から指示が出てるんだよ、坊主!『リクトという掃除人には食材を買わせるな』とな」
な、何いっ?
ん? ふと後ろを振り向くと、向こうの菓子屋の前で見覚えのある少年がこっちを見ている。
ロブソンだ!
「あの野郎、偵察してやがる! そ、そうか! 街にラーパスの指示が回ってるってことか?」
ラーパスの野郎、本気で俺を潰すつもりだ!
そもそもだ……俺は料理の知識は多少はあるが、調理の実技経験に乏しい……!
「このハンデでどうやってラーパスに勝つ?」
その後、俺は悩みながら一週間を過ごし、「料理勝負スタジアム」に向かわなければならなかった。
◇ ◇ ◇
五日後の祝日……ラーパスとの料理勝負の時間がやってきた!
「料理勝負スタジアム」内は、俺に対する威圧感と熱気が、体にまとわりついてくるようだった。
「奴隷野郎! てめぇがラーパスさんに勝てるわけがねえんだよ!」
「掃除人が教頭の息子さんを挑発したらしいぜ。失礼な野郎だ」
「リクト! アカデミーの生徒でもねぇお前が、勝てると思ってんの?」
俺に対するすさまじい罵声――!
千人以上座れる観客席は、料理学校の生徒でほぼ埋め尽くされていた。
全員、ラーパスの味方かよ!
「おいおいおい~、リクト君、本当に来ちゃったのぉ? ヒャヒャヒャ」
歪みきった笑い声が、右の厨房で待っている少年から発せられた。
ラーパス……俺に食材を買わせないようにするとは汚ねえ真似を……!
コックコート姿のラーパス・ボルダーは、笑いをこらえるような顔でパシパシと俺の肩を叩いた。
「頼むよ~! お前、ボロ負けして泣きわめくなよ? お客様に笑われないよう、ちゃんと最後まで料理しようぜ?」
ラーパスは、俺の荷台の安いキャベツや小さいトマト、タラ、包丁を横目に言葉を放った。
助手はロブソン・アンダーソンだ――ラーパスに俺の行動を報告しやがったな!
そのとき――声が響いた。
『料理は戦場だ! 食材と調理器具は兵器である!』
ドヨヨッ……というざわめきが客席から漏れた。
スタジアムに魔導拡声器によって響き渡る野太い声。
いつの間にかボルダー教頭が、スタジアムの檀上に仁王立ちしていた。
『これより我が[ランゼルフ料理アカデミー]公式行事である、料理勝負を行う!』
ドオオオオッ
すさまじい観客の盛り上がりだ!
「ラーパスさん、相手を徹底的に潰せよ!」
「料理は戦争だあっ!」
「掃除人が料理なんてするんじゃねえよ! 負けて家に帰れや!」
『対戦は我が息子、料理の天才少年、ラーパス・ボルダー! そして相手は……えーと、名前は何と言ったかな?』
ボルダー教頭がわざとらしく額を指で叩き、考えるフリをした。
『そう、掃除人のリクトだ――。さて、私以外の審査員の紹介だっ! さあ、どうぞ!』
『私はランゼルフ王国副料理長、ピエール・ダンクセン!』
若い金髪の青年がそう叫び、長髪をサッと払った。
あ、あのスカした男が王国の副料理長だと……?
ランゼルフ王国で二番目に偉い料理人ってわけかよ……!
『若い料理人たちよ、全ての料理と私にひれ伏せ!』
言っている意味が分からんが、「俺は偉い」とでも言いたいんだろう、多分。
『私のことは、グレゴリー夫人と呼んでください。今日の審査を担当いたします、よろしく』
今度は、上品そうな婆さんが出てきたぞ?
「ね、ねえ! リクト君!」
助手をかって出てくれたアイリーンが、俺の厨房から話しかけてきた。
アイリーンは厨房に撒かれた「悪魔の唐辛子」を拭きとってくれた……助かる!
「あのお婆様……。どこかで見たことがあるわ。グレゴリーってまさか、あの女性で初めて、世界料理選手権で優勝した……」
『課題は魚料理! ――では、勝負始め!』
教頭の掛け声で、大太鼓が鳴らされた。
「この勝負、勝たなくちゃならねえ! 俺が料理人になるために!」
俺は自分の頬をピシャピシャと叩いて気合を入れた。
「確かに大ピンチだ……! だが、絶対に勝つ方法があるはず!」
そのとき――俺の頭の中に声が響いた。
『その言葉を待ってたぜ……! リクト、てめぇは尻にフォークを突き刺されなきゃ、才能に火がつかねえタイプなんだよ!』
こ、この声は……俺の前世のジョウイチ!
『さあ、[クエスト①]の報酬を授ける! 受け取り日時は料理勝負直前――今すぐだ!』
ど、どういうことだ? ジョウイチ!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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楽しんでいただけましたら、次回以降もお付き合いいただけると嬉しいです。
本作はすでに「全58話」まで書き終えており、毎日更新を予定しております。
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