第43話 レイチェル VS テオドーラ③
「これがあたしのとっておきの秘策、キング・レッドクラブの身のみを使った『100%カニパエリア』だ!
テオドーラの声がスタジアムに反響した。
「むむう……。米ではなく、化け物のカニの身だけを使ったのか!」
ドレック先生が恐る恐る、カニ100%パエリアを口に運んだ。
「み、見事! カニの身が淡白だからニンニク、白ワイン、塩、レモン……。様々な味と競合せず味わえる!」
「キング・レッドクラブの身自体も、甘味があって美味しい!」
エミリア先生の顔がほころんだ。
「主張しすぎないお味……。ズワイガニに近いかしら」
「ふむ……。お見事なお米と魚介類のお料理でした」
グレゴリー校長はハンカチで上品に口をぬぐった。
テオドーラは両腕を組んでドヤ顔だ。
ドロシーはグレゴリー校長を見やり、何かをメモ調に書き込んでいる。
「さあ、レイチェルさんのアクアパッツァのほうも気になりますわね」
グレゴリー校長が言うとレイチェルは「はい!」とうなずいた。
そして素早く自分の料理を先生たちに配膳し、声を上げた。
「『鯛とジャイアント・ロブスターの、ホイップクリーム・アクアパッツァ』です! さあどうぞ!」
だが、レイチェルのアクアパッツァを見た審査員――観客全員が唖然とした。
大皿の上には、魚も野菜も何もない!
ただ、絹織物のごとく真っ白いホイップクリームが、大皿を覆っているだけだ。
「な……何だこれは! バカバカしい!」
ドレック先生が怒りで顔を真っ赤にし、両手の平で机を叩いた。
ナイフとフォーク、スプーンが飛び上がり、机から落ちそうになった。
「アクアパッツァを作った、というから私は期待したのだが――! 魚も何もないではないか。おやつのケーキを作るとは!」
「お待ちください!」
レイチェルは冷静に声を上げ、大皿を指差した。
「今から、スプーンでそのホイップクリームを掘っていただきます!」
「な、何いっ? 何をバカなことを!」
ドレック先生が戸惑っていると、エミリア先生が助け舟を出した。
「ま、まあまあ、落ち着いて。生徒……いや、シェフの言う通りにしましょう」
エミリア先生がすぐにスプーンでホイップクリームをすくうと――。
一匹の鯛と大きなロブスターの身が姿を現した。
観客は驚きの声を上げた。
「おおお! クリームの中から鯛とロブスターが出現した!」
「やっぱり、ケーキじゃなかったのか~!」
「じゃあ、あのホイップクリームはなんなんだよ?」
すぐにエミリア先生はナイフで鯛を切り分け、フォークでクリームと身を一緒に食べた。
「これは――美味しい! このホイップクリームは、トマトとニンニクの味がする!」
「はあ? そんなバカなっ……」
ドレック先生が、あわてて自分もホイップクリームと鯛を一緒に口に運んだ。
「むう……ほ、本当だ! 甘くない。上等なクリームソースとでもいうべき味だ!」
ドレック先生は耐えきれなくなったように、急いで鯛やロブスターに食いつき始めた。
「う、うぬぬぬ……! 鯛もロブスターもホイップクリームの味とよく合って……。う、美味い! この純白のホイップクリームが、なぜトマトとニンニクの味がするのだ?」
「このホイップクリームは――『トマトウォーター』を使っている。そうでしょう、レイチェル!」
そう声を放ったのはグレゴリー校長だ。
唖然としたのはレイチェルのほうだった。
レイチェルの創作料理もすごいが、グレゴリー校長の舌と知識量はどうなっているんだ?
「あ……そ、その通りです!」
レイチェルはグレゴリー校長に向かい、姿勢を正して口を開いた。
「トマトを刻み、ピューレ状にします。それをクッキングペーパーで濾し、水分を取り出す。何度も濾すと、透明に近づく――それがトマトウォーターです!」
レイチェルは続けた。
「続けてトマトウォーターに、ニンニクペースト、粉ゼラチン、生クリームを加えて混ぜる! すると、純白に近いホイップクリームができあがります!」
「だから純白なのにトマトとニンニクの味がしたのね!」
エミリア先生は感心したように、首を横に振った。
「皿に盛ってあるアサリ、アスパラガス、ジャガイモも美味しいわ!」
グレゴリー校長もロブスターを口に運びつつ、口角をわずかに上げた。
「鯛とロブスター、トマトとニンニクのホイップクリームがよく合い――これはまさに新しいアクアパッツァです!」
おお……すげぇ賛辞だ!
『で、では! 審査員の先生方、評決を!』
するとグレゴリー校長はフッとため息をつき、机の上の札を見定めた。
そしておもむろに手を伸ばした。
――観客の声がさざなみのようにざわめく!
「ああっ……! 見てみろ!」
「なんだと?」
「おおおお! 意外な展開だぞ!」
グレゴリー校長が札を掲げたのは――レイチェルとテオドーラ……!
両者の札だったのだ!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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