第42話 レイチェル VS テオドーラ②
レイチェルは「ジャイアント・ロブスター」と対峙し、テオドーラは「キング・レッドクラブ」に立ち向かっている。
眠らされていた体長三メートルの二匹の魔物が、係員の手によって運ばれてきたのだ!
ジャイアント・ロブスターはロブスター――ザリガニ型の魔物で、キング・レッドクラブはカニ型の魔物だ。
「食材は自分で仕留めて手に入れてください! これも教育の一つ!」
グレゴリー校長は右手で眼鏡の位置を直し、声を張り上げた。
どうやらグレゴリー校長の指示で連れてきた海洋魔物らしい。
まったく、鬼か悪魔だぜ……グレゴリー校長!
「騎士道を学んだ者として、逃げるわけにはいかない!」
レイチェルは厨房に準備されていた、刃渡り三十センチの大出刃包丁を手にした。
レイチェル、マジで戦るのか……!
「来たぞっ! リクト、私が倒す」
ジャイアント・ロブスターは陸の上だというのに、結構軽快に動く!
「ガウォオオオ!」
耳をつんざく咆哮を上げ、左腕を振り上げた。
丸太棒のように太く、硬そうな甲殻に包まれた腕だ!
「ふむ――速い」
レイチェルは一歩後退し、ジャイアント・ロブスターの攻撃を避け――!
魔物の腕の第一関節に刃を差し込んだ。
「ここだっ」
ゴトリ、と鈍い音が地面に響いた。
レイチェルは、あの太い左腕を切断したのだ!
観客は大盛り上がりだ!
「う、うおおおおっ、すげえ」
「レイチェル、やった!」
「強ぇええええ」
だがジャイアント・ロブスターは傷口から体液をこぼしつつ、右腕で攻撃してくる!
左腕を切断されているのに、動きが衰ない!
レイチェルはつぶやいた。
「見事な生命力だ」
ジャイアント・ロブスターの右腕が、レイチェルの左肩口の横を通過する。
――レイチェルの肩をかすった!
「くっ!」
レイチェルの肩に血がにじむ。
危ない!
俺は急いで玉ねぎを持ち、魔物の後頭部に思い切り投げつけた。
「グオッ?」
ジャイアント・ロブスターは俺のほうを振り返った。
「いいぞ、リクト!」
レイチェルは素早く胴に接近し、大出刃包丁を魔物の胸に差し込んでいた。
「ガ、アアアアアアッ」
ジャイアント・ロブスターの断末魔の叫び声が周囲に響き――。
レイチェルは包丁を引き抜いた。
ジャイアント・ロブスターは崩れ落ちた……!
「か、勝った……」
レイチェルが安堵のため息をついていたそのとき――。
「ウゴオオオオオオッ」
向こうのほうでは、テオドーラがキング・レッドクラブと戦っていた。
し、しかし……!
テオドーラの右拳が、キング・レッドクラブの甲羅を貫いていた。
「す、すげえええ」
「とんでもないパンチだ!」
「料理人じゃなくて武闘家じゃねえのか……」
観客はざわめいた。
テオドーラは笑みを浮かべ、右拳を引き抜き――。
手に掴んだ、キング・レッドクラブの身をガツガツ食べ始めた。
「美味いぜえええっ」
あ、あんな魔物たちを簡単に倒してのけるとは、まったく恐ろしい女たちだ……!
◇ ◇ ◇
二人とも重要な魚介類の身を手に入れ、自分の料理に使用し――。
『調理時間終了です! 料理を審査員に提出してください』
ちょうど調理終了と審査開始の放送がかかった。
ふう、バカでかいロブスターとカニが出てきたときは、さすがにヤバいと思ったぜ……。
死んだ二匹の魔物は、係員の手によって処理された。
「では、あたしのパエリアを思う存分、食べてもらおうか!」
テオドーラが叫ぶと、三人の審査員たちは巨大パエリアの大鍋の前に移動した。
「おお、これはすごい!」
ドレック先生が高らかな声を発した。
うーむ……この先生は、テオドーラの担任だからなあ……。
「見事! カラフルで美しい」
鍋の中を見ると黄色、赤、白のパエリアが放射状に巨大パエリア鍋を覆いつくしている。
黄色はサフラン、赤はトマトとパプリカパウダーを使用したんだろう。
しかし、白雪のようなあの純白のパエリアはどうやって作ったんだ?
「うむ――美味い!」
ドレック先生がスプーンで、黄色く煮炊きされた米――パエリアを頬張った。
「鶏肉、アサリ、玉ねぎなどのうま味が、すべてこの米に吸収されている!」
「匂いもいいわ」
エミリア先生もどんどん、パエリアを口に運ぶ。
「ああ、サフランのパエリアの匂いの優しいこと! 赤いパエリアはトマトの酸味がよく合っているわ」
「焦げた米の香ばしさが口いっぱいに広がる! そしてこの米のパラリとした食感がまた良い」
ドレック先生は大きくうなずいている。
あのパエリアの米は水分をよく吸い、俺が寿司やうな重で使った日本の米よりも粒が大きい。
あれはボンバ米の一種で、少量だけエルサイド諸島で採れるらしい。
「そしてこの白いパエリアは……」
グレゴリー校長はスプーンで白いパエリアを口に運んだ。
あの純白のパエリアの謎……あれはいったい何なんだ?
「ふむ……!」
グレゴリー校長は目を丸くした。
「全部カニの身よ!」
な、何いっ?
全部カニ?
俺が驚いてテオドーラを見ると、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「これがあたしのとっておきの秘策、キング・レッドクラブの身のみを使った『100%カニパエリア』だ!
「100%カニパエリア」……そ、そんなパエリアがありえるのか?
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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