第41話 レイチェル VS テオドーラ①
一週間後――俺たちブルークラスとホワイトクラスの対決は、第二戦目を迎えた。
噂が噂を呼び、携帯端末「Wendy」で俺たちの料理勝負の動画が拡散。
第二戦目の料理勝負は、グレゴリー島で二番目に大きい公共料理勝負スタジアム「臨海料理勝負スタジアム」で開催されることになった。
◇ ◇ ◇
臨海料理勝負スタジアムの客席は、生徒や一般の客でかなり埋まってきていた。
――潮風のにおいがほんのりと風に運ばれてくる。
レイチェル・レイクバーグとテオドーラ・バウスネルンの対決の課題は「魚介類」!
「お前! レイチェルって名前だっけ?」
左の厨房に立っていたテオドーラが、右の厨房で勝負の準備をしていたレイチェルに詰め寄った。
テオドーラの隣にはゲルダのときと同じように、ドロシー……ベクターやゲルダの姉である「参謀」がいる。
一方、レイチェルの助手は俺――リクト・ロジェが名乗り出た。
「おい、レイチェル! てめぇ無視すんなよ。上からサンドイッチみたいに潰すぞ」
テオドーラが拳をポキポキ鳴らしながら言うので、レイチェルは眉をひそめた。
「黙れ、野蛮な獣人よ」
「生意気な女だ……。クッキーみたいに粉々にしてやる」
獣人少女はグフフッと笑い、猫耳を動かした。
「そのあと、あたしの嫁にしてやる!」
「なっ、や、やめろ! どういう矛盾を言っているのだ!」
レイチェルは顔が真っ赤だ。
『で、では、料理勝負二戦目! 始めてください!』
魔導拡声器で勝負開始の放送がスタジアムに響いた!
「どおおりゃあっ!」
するとテオドーラが厨房に置いてあった、巨大な鉄製の何かを持ち上げた。
――観客たちが騒ぎ始めた。
「お、おい! なんだありゃ?」
「すげえ! でかいぞ」
「鍋だ! パエリア専用の巨大鍋だ」
その通り――巨大パエリア鍋だ。
直径1メートルはあるぞ!
テオドーラは叫んだ。
「あたしの料理は『巨大パエリア』だああっ!」
すでにブロックとレンガでできたかまどが積み上げられ、地面に焚火が燃やされ、鉄でできた「五徳」が設置されている。
テオドーラはその筋力で五徳の上に、巨大パエリア鍋を配置した。
グレゴリー校長は、眼鏡の位置を直し感心したように見入っている。
「まずはたまねぎとピーマン、鶏肉を刻むぜ!」
お、おや?
厨房に戻ったテオドーラはでかい体のわりに、細かい包丁さばきを見せた。
たくましい筋肉が、太陽の光を反射している――。
「そしてこの魔法のスープだ!」
テオドーラはチキンスープを作っていたが、小瓶から黄色い粉末を投入した。
「あれはクロッカスの花のめしべ――サフランで色付けしているはずだ」
レイチェルは俺に耳打ちした。
このサフランが、パエリアの味わいと匂いの核となるらしい。
「見てな! 潰すぜええっ!」
テオドーラはその大きな右手の平を、厨房の台に振り下ろした。
弾けるような音がし――ニンニクが平べったくなっていた……!
と、とんでもねえ力だ!
「この潰れたニンニクと、玉ねぎのみじん切りを炒めるぜ!」
テオドーラは手際よく、右手で大きなヘラを動かし巨大鍋でニンニクと玉ねぎを炒め――。
ミシイイッ
リンゴを丸ごと左手で潰し、果汁を炒めたニンニクと玉ねぎに注ぎ込んだ!
「リンゴ果汁は隠し味だ! そしてイカやタコ、アサリも炒める!」
炒めた魚介類にトマトピューレと白ワインを、自由にドバドバ投入……!
ご、豪快すぎるぜ!
だが肝心の米は……まだ炒めないのか?
「よし、私は『アクアパッツァ』を作る!」
準備に追われていたレイチェルが、やっと声を上げた。
「リクト、今回は最高の鯛を手に入れたぞ!」
レイチェルは嬉しそうに叫んだ。
調理台の上には、桜色が美しい巨大な鯛が置かれている。
「まずは鱗を取る!」
レイチェルは鱗取りで鱗を取っていく。
その後、鯛の内臓を除き水で流す。
十字の切れ込みを入れ、塩を振る――すさまじい速さだ!
「す、すげえ……。レイチェルって新入生……!」
「手の動きが速すぎる!」
「動きによどみがまったくねえ!」
観客たちはレイチェルの調理の素早さに、感嘆の声を発した。
「ニンニクのみじん切りをオリーブオイルで熱する!」
レイチェルは止まらない!
鍋に心地よい音が弾け、香ばしい匂いが周囲に立ち込めた。
「ふむ……。頃合いですね」
すると――審査委員席で今まで黙っていたグレゴリー校長が声を上げた。
「では、この料理勝負の特別ルールを行います!」
ん? 何言ってんだ、あの校長……?
すると、約三十名の係員たちがそれぞれ巨大な鉄の台車を二台、運んできた。
その台車は縦、横、二メートル四方あり、驚くほどの大きさだ。
「み、見ろ!」
「何だありゃ?」
「台車の上に変なものがのっかっているぞ?」
二台の台車の上には、それぞれ何やら巨大なものがいるようだが……?
その台車の上にのっかった「もの」はモゾモゾと動き始めた。
そして――観客たちは悲鳴をあげた。
「う、うわああああ!」
「う、動いたぞっ!」
「ひええ、何だ、あの化け物は……!」
台車の上にのっかって寝ていた「もの」とは――「ジャイアント・ロブスター」と「キング・レッドクラブ」……!
携帯端末の動画検索でしか見たことがない、体長三メートルのロブスターとカニの魔物だ!
しかし二匹とも、その身は美食家をうならせる超美味だというが……!
「レイチェル、危険だ! 逃げろ!」
俺は叫んだ。
しかしレイチェルはジャイアント・ロブスターの前に立ち、テオドーラはキング・レッドクラブの前に立った。
「お、おい! まさかあの化け物と戦闘を始める気なのか?」
俺は叫んだが、二匹は眠りから完全に覚め、巨大な体格を揺り動かした。
い、一体何なんだ、何が起こっている?
グレゴリー校長はただ、口角を上げ笑うだけだった――!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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