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異世界料理アカデミー ~掃除人の俺、謎スキル「異次元デパ地下」で料理革命~  作者: 武野あんず


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第40話 アイリーン VS ゲルダ③

エルサイド島産のピスタチオの粉末を練り込んだラビオリで、優位に立ったとみえたゲルダ……。


しかし、アイリーンはまったくひるむ表情を見せなかった。


グラタンの上の甘そうなカラメルを批判されたのにもかかわらずだ!


「――あら、このカラメル、甘くないわ!」


第一声を発したのは、エミリア先生だった。


「いえ、多少は甘いけど――塩味(えんみ)のほうが強い!」

「はい! このカラメルには粉チーズが入っています」


アイリーンはにこやかだった。


「チーズグラタンにはピッタリですよ!」

「うぬぬっ……! だが、肝心のグラタンが美味(うま)くなければ不合格だ」


ドレック先生はグラタンをフォークですくい上げた。


そして、よく味わい汗を拭いてからアイリーンを(にら)みつけた。


「くっ……。お前のような才能が、なぜブルークラスにいるのだ?」


そして言葉を発した。


「鶏肉、マッシュルーム、モッツァレラチーズが、すべてホワイトソースの中に完璧に配置されている!」

「ちょっ……ドレック先生! なんで他のクラスの生徒を()めるんですか!」


ゲルダは目を丸くしてあわてて叫んだが――。


「黙れ、ゲルダ!」


ドレック先生は詰め寄ってきたゲルダを、片手で追い払った。


そして続けてアイリーンのグラタンを続けて頬張(ほおば)った。


「美味い……! しかも何なんだ、この味わいは? 南国の香りと、カリッとした鋭い塩味が舌の上に残る……!」

「それはバナナですよ」


グレゴリー校長の目が(たか)のように光る。


「アイリーンさん、これはバナナチップスですね? しかも単に揚げただけではない」

「は? バナナチップス? 子どもの甘いお菓子がグラタンに合うわけないじゃないですか。バカじゃないの?」


ゲルダは苦々しげな表情でつぶやいた。


アイリーンはキッとゲルダを睨んでから、またにこやかな表情に戻った。


「はい、グレゴリー校長! グラタンに特殊な製法のバナナチップスを入れました!」

「塩味が強くて、ここまでサクサクのバナナチップスは初めて食べたわ」


エミリア先生が驚きの表情で言うと、アイリーンは深くうなずいた。


「バナナを紙のように薄く切り、高温の油で一気に揚げます。その後、水分を一気に飛ばし岩塩をまぶす。するとバナナの風味と香りを残しつつ、サクサクしたスナック食材になるのです!」

「なるほど。この塩味バナナチップスのおかげで、一本調子(いっぽんちょうし)のグラタンの味に良い変化が起きている」


グレゴリー校長がグラタンを味わいながらつぶやくと、エミリア先生はパン箱に横からかぶりついた。


「ホワイトソースとパン、バナナの相性がいいわ! パンの耳も、薄力粉を入れ焼成(しょうせい)温度を低くしており、薄く柔らかくできている。どこからでも食べやすい!」


生徒たちはエミリア先生の発言にどよめいた。


「お、おい……。グラタンをあんな食い方してるよ」

「う、美味そうだな」

「形も面白いし……。もしかしてアイリーンって新入生、すごいんじゃないか?」


◇ ◇ ◇


やがて――勝敗を決するときがきた。


審査員の前には、アイリーンとゲルダの名前がかかれた(ふだ)が置いてある。


「――私は、この生徒の料理を推します!」


グレゴリー校長が(かか)げたのは――アイリーンの札だった!


「あっ、ぐぐ……!」


ゲルダは鬼気迫る表情で、アイリーンのほうを見やった。


しかしアイリーンはそっぽを向いて相手にしない。


「私はこの生徒を選ぶ!」


ドレック先生は素早く、いとも簡単にゲルダの札を()げた。


ゲルダの表情がランプに火をつけたように、パッと明るくなった。


観客の注目は、エミリア先生の裁定に集まった。


「あ、えーっと……」


エミリア先生は二枚の札を穴があくほど見つめていた。


エミリア先生が札を揚げれば、そこで勝負は必ず決する!


彼女は脂汗を流し札を睨んでいたが、やがて札に手を伸ばした。


「わ、私はこの方のお料理が美味しいと感じました!」


エミリア先生が掲げた札は……?


誰だ……?


「ま、まさか!」


ゲルダは悲鳴に近い金切り声を上げた。


エミリア先生が掲げた札は、アイリーンだった……!


アイリーンの勝利だ!


「こ、このぉ!」


ゲルダは猛烈な勢いで、エミリア先生の席に詰め寄った。


お、おいおい……。


「このバカ教師がああっ! なんで私の負けなんだよ!」

「きゃあ! ゲルダさん、落ち着いて……」


エミリア先生は席を離れつつ、説明した。


「アイリーンさんの料理のほうが、独創性がありました。ゲルダさんのはきれいだけど、貴族、王族のお料理としては珍しくないもので……」

「頭狂ってんのか、このバカ教師! てめーの脳みそはブロッコリーか、バカ野郎!」


ゲルダはドスの効いた声で、声を張り上げた。


ゲルダファンだった生徒たちはドン引いてるな……。


エミリア先生が今にも殴られそうだったので、俺はエミリア先生とゲルダの間に入り込んだ。


「おいゲルダ、もうやめろ! 勝負は終わった」

「うるせー! リクト、てめーも頭、かち割ったろか! 頭を(つぶ)してトマトピューレにしてるうう!」


ゲルダは警備員に取り押さえられながら、まだ暴れている。


まるで爆弾のような女だな。


アイリーンといえば、勝者らしく観客に投げキッスをしている。


「ふーむ……」


アイリーン、ここまで強いとはな……。


さすが、ランゼルフ料理アカデミーで学級委員長に選ばれただけのことはある。


「さて、次はレイチェルの番だが……」


俺は観客席の特別最前列席に座っている、神妙な顔のレイチェルを見やった。


「おいおいおい~。ホワイトクラスの下っ端、ゲルダに勝ったからって何の意味もないぞ」


声を発したのは「獣人族」の少女、テオドーラ・バウスネルンだった。


テオドーラも観客席の特別最前列で、勝負を見ていたらしい。


第二戦――レイチェルと戦う相手だ!


「あたしはゲルダとは違う! 力の料理を見せてやる……!」


テオドーラのはち切れんばかりの筋肉が、躍動(やくどう)しているように見えた――。

【作者・武野あんず からのお知らせ】

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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次回もぜひお楽しみに♪

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