第39話 アイリーン VS ゲルダ②
アイリーンとゲルダの料理勝負が続いている……!
アイリーンはパン箱チーズグラタン、ゲルダはリコッタチーズやハーブの詰め物入りパスタ――ラビオリを作った。
そして――二人とも秘策を隠し持っているようだ!
『調理時間は終了です! 料理を審査員に提出してください!』
魔導拡声器の放送がかかった。
二人とも料理をサービスワゴンに入れて、審査員のところまで持っていった……が!
鉄と鉄がぶつかり合うような、鋭い音が響いた。
「あら、ごめんあそばせ。アイリーンさん」
ゲルダが素早く審査員の前に、サービスワゴンを押し出したとき……。
サービスワゴン同士がぶつかったのだ!
「わざとじゃないわよね?」
アイリーンは笑みを浮かべている。
やべぇ……。
するとゲルダは何食わぬ顔で言い返した。
「わざとじゃありませんことよ! わざとやるなら、料理ごと本気で潰しにいきますわ!」
「ウフフ……」
アイリーンは笑っていたが、突然、ゲルダに頭突きをかますくらい接近した。
「やれるものならやってみなさいよ!」
「いい加減になさい! ゲルダ・ローバルフォードさん、あなたの料理からです!」
見るにみかねた審査員のグレゴリー校長が叫んだ。
審査員はグレゴリー校長、エミリア先生、ドレック先生だ。
「ほほう……ゲルダの料理は美しい! さすが我が生徒!」
ゲルダの担任、ドレック先生はゲルダのラビオリをフォークで口に運んだ。
ゲルダの料理は大きめの皿に四角いラビオリがたくさん配置され、四角いゼリーと花びらが散らしてあり、黄色いソースがかかっている。
「む、見事! 美味い!」
ドレック先生は楽しむように、次々とラビオリを口に放り込んだ。
「ラビオリの中の詰め物はリコッタチーズとハーブ。ほろりとしたリコッタチーズに、豊かなハーブの芳香が広がる……」
「あら、お花と一緒に食べると、口の中にほろ苦さとさわやかな香りが広がるわ!」
エミリア先生は散らしてあるビオラ、マリーゴールドを食べ、深くうなずいた。
「このキューブ状のものは……ゼリー?」
エミリア先生はラビオリを味わいつつ、ゼリーをスプーンですくった。
それを深く味わい、また二、三度うなずいた。
「オレンジの甘味をおさえてあるのね。酸味が効いて美味しい。ゼリーの歯ごたえが、モチモチしたラビオリと不思議と合っているわ」
「ソースはバター、レモン、ワイン、塩……シンプルな四重奏」
グレゴリー先生はそうつぶやき、大皿の中でひときわ目立つ、緑色の生地のラビオリを口にした。
そして眼鏡の位置を直し、深くため息をついた。
「とても面白い! 異国的な味――ナッツの味がするわ」
ラ、ラビオリにナッツだって?
あのグレゴリー先生がゲルダの料理をほめているぞ……。
ゲルダは嬉々として明るい声を上げた。
「グレゴリー先生、ありがとうございます! それは低温乾燥したナッツ――ピスタチオの粉末を練り込んだラビオリです!」
観客はどよめいた。
「ラビオリにナッツの粉末を練り込むなんて!」
「面白いアイデアだ!」
「俺、ゲルダさんのファンクラブに入りたいんだが……」
ゲルダは冷笑しアイリーンを見やったが、アイリーンは両腕を組んでそっぽを向いた。
「エルサイド島産のピスタチオの香ばしさが詰め物のチーズやハーブとよく合って、食欲をそそります。……良いお料理です!」
グレゴリー校長は満足げにうなずいた。
ゲルダは再度、意地悪い笑顔をアイリーンに見せつけた。
しかしアイリーンは構わず、自分の料理を配膳し始めた。
「次はアイリーン・ウィントールの料理だが……。こ、これは何かね?」
ドレック先生は眉をひそめて、目の前のアイリーンの料理を観察した。
アイリーンの料理は正方形の食パンの中をくり抜き、ホワイトソースを入れて焼き上げたもの――。
「『パン箱チーズグラタン――クリームブリュレ仕立て』でございます!」
「こ、これがグラタンだと?」
ドレック先生は顔をしかめた。
パン箱のグラタンの上部には、クリームブリュレのような茶色い硬いフタが輝いていた。
フタはクリームブリュレを模した、飴状のカラメルだ……!
「グラタンに甘ったるいカラメルでフタを? こんなものは甘すぎてグラタンには合わぬわ!」
ドレック先生の両手が机を打ち、食器が音を立てた。
しかしアイリーンは待ってました、とばかりニヤリと笑った。
「いいえ、その心配には及びません!」
アイリーンはドレック先生のパン箱グラタンの茶色いフタを、スプーンで割った。
パリン
薄いカラメルが割れる音が、緊張で張り詰めた会場内に小さく響き渡った。
「さあ、カラメルごとグラタンをご賞味ください!」
アイリーンは自信たっぷりに、舞台女優のごとく片手を胸に当てて頭を垂れた。
観客たちは困惑した表情で、グラタンとアイリーンを交互に見ている。
「グラタンに甘いカラメルだって? カラメルって砂糖だろ?」
「甘くないピスタチオの粉末とはわけが違うぞ。グラタンには合わないんじゃないか」
「やっぱりホワイトクラスには敵わないんじゃないの?」
しかしアイリーンは、勝ち誇ったような顔で胸を張っていた……!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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