表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界料理アカデミー ~掃除人の俺、謎スキル「異次元デパ地下」で料理革命~  作者: 武野あんず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/45

第34話 ベクターの罠とシヴェ・ド・サングリエ

『調理終了――各自、料理を審査員に提出してください!』


魔導(まどう)拡声器で放送がかかった!


ついに勝負のときが来たか――。


『リクト・ロジェ組とベクター・ローバルフォード組が対戦いたします! 各組は対戦の準備を開始してください』


おっ? なるほど、俺やニコル、ポレットはベクターやガルダスと対決か。


これはグレゴリー校長が望んだ対決だろう。


そのとき――携帯端末の「WENDY(ウェンディ)」から、人工的に作られた軽い音が音が聞こえた。


「ん……? 魔導(まどう)メールか」


魔導メールは企業の宣伝が多くて辟易(へきえき)するが……。


だが、俺は表示された最新のメールを見て愕然(がくぜん)とした。


「……な、何だとぉっ!」



件名【ポレット・モリアーネの件】


『ポレット・モリアーネの身柄は預かった。返してほしくば、ベクター・ローバルフォードとの勝負に負けろ。さもないとポレット・モリアーネがどうなるか……分かるな?』



「う、うっそだろ……」


俺は急いで周囲を見回したが……。


ポ、ポレットがいない!


「わ、私のWENDYにもメールが!」


ニコルが俺に耳打ちした。


送り主は『pdqfa99ajoa』などと適当な文字列、文面にも差出人の名前がない。


ポ、ポレットが誘拐されたのはマジか……!


「ま、まずいぞ! 一体誰が……」

「おやおや、何かありましたか?」


ベクターがにんまりとした顔で俺を見やった。


お前なんかどうでもいい――本当にポレットがいない!


ニコルがあわてて、ポレットを探しに行った。


「お仲間が一人、足りないようですねえ?」


こ、こいつ……ベクター……?


「……て、てめぇ! 何か知ってやがるな!」


ベクターの薄暗いニヤけ笑いは、何かポレットのことを隠している――そう示しているようだった。


「リクト君、何を疑ってらっしゃるのです? もうすぐ審査開始ですよ?」

「ポ、ポレットはどこだ? お前、知ってんだろ……」

「ええっと……ポレットさんのことは残念でした、あはは」

「お、お前ええっ! 詳しく言え!」


俺は怒りにまかせてベクターの棟ぐらを(つか)んだ。


こいつは絶対、何か知っている!


「ポレットさんのことを先生に話したら、彼女の命はどうなるか……分かっていますよねえ? リクト君」


ベクターは自分のWENDYの画面を見せつけてきた。


ポ、ポレットの画面が映っている!


彼女の声が聞こえた……。


『リクト……私のことはいいから……勝負に集中して』


ポレットは縄を全身に縛りつけられている!


後ろには長髪の漁師たちがいる――こ、こいつら、禁足地(きんそくち)で見た漁師か!


ポレットはどこかの部屋に座っているようだが……。


「な、何が目的だ? お前ら……!」


ベクターは悪魔よりも陰鬱(いんうつ)な顔をしていた。


「僕の料理は最高です。君との対決は必ず僕が勝つでしょう。しかし、君を徹底的に叩き潰さないと僕の気が済まないんですよ」

「な、何だと? 勝負と何の関係が……」

「あれれ? 僕に手を出したら、ポレットさんが死んじゃいますよ~?」


俺が仕方なくベクターを引き離したとき、ニコルが帰ってきた。


泣きそうな顔をしている。


「ダ、ダメ! ポレットの行方を知っている生徒は誰もいないよ」

「せ、先生には言ってないだろうな?」

「う、うん。――でも、もうすでに審査が始まっているわ……」


俺は素早く「うな重」を、審査員席のグレゴリー校長やエミリア先生たちに提出した。


「ポ、ポレットのことは心配だが、目の前のことをやるしかねえ!」


俺はクスクス笑っているベクターを(にら)みつけた。


この勝負で勝って、ポレットの居場所を聞き出さないと……!


◇ ◇ ◇


「では、我々の料理から食べていただきましょう!」


ベクターは何食わぬ顔で、料理を校長たちに配膳(はいぜん)した。


メールに『ベクター・ローバルフォードとの勝負に負けろ』と書いてあったが、どういうことなんだ……?


俺は後でこの意味を、嫌というほど知らされることとなるが……。


「あ、あれがシヴェ・ド・サングリエね……!」


ニコルが静かにつぶやいた。


「み、見て、あのソースの色!」


ううっ? ソースは毒々しい真っ赤だ。


しかし粗野(そや)な料理かと思ったら、そうではない。


イノシシ肉を食べやすいように格子状――つまりサイコロステーキの形に切ってある。


「こ、このソースは、イノシシ型魔物の血液が入っているのね」


エミリア先生が恐る恐るつぶやいた。


「でも肝心のお肉が問題ね。硬さ、匂い、味の観点がら厳正な批評をさせていただくわ」


エミリア先生がフォークでイノシシ肉を口に運んだ。


「あら! 柔らかい。肉質がしっかりしているのに、スッと()み切れる!」


緊張感があったエミリア先生の口元が少しゆるんだ。


「これは……美味(おい)しいわ!」


一方……エミリア先生の右隣に座っているのは、見慣れない若い長髪の教師だが……。


「あ、あの先生はホワイトクラスの担任、ルドルフ・ドレック先生だよ! 今日の審査員長……!」


ニコルは不安気な表情で長髪の男性教師を見やった。


「……くだらん料理を食べさせたら(われ)の舌が怒り狂う!」


長髪の男性教師は声を上げ、俺を睨みつけた。


「我の審査は、それこそリンゴの皮一枚すらも残らんぞ! 覚悟は良いな」


するとドレック先生は背筋を伸ばし、フォークで素早く肉を口の中に放り込んだ。


「うーむ……ふふ……美味い! さすが我が生徒!」


おや?


くそ……まあ、ベクターの担任だから、ヤツの味方するのは当然か!


「野菜の旨味、赤ワインの酸味、肉のボリューム感、そして血液のトロリとしたコクが口の中に広がっていく!」


ふん……ドレック先生は「舌が怒る」とか言いつつもベクターをべた褒めだ。


となると、厳しい審査を受けるのは俺……!


「血液のコクは例えればビターチョコレートの渋みや深みも感じる。しかし、野菜の甘味がそれをうまく打ち消している……。見事だ!」

「……ふむ」


ん? 一番左に座っているグレゴリー校長が俺とベクターの顔をじっと見ている。


「お二人とも、何か悩みごとがあるのですか? とくにリクト君……」


うっ……?


グ、グレゴリー校長は俺の不安を見抜いている……!

【作者・武野あんず からのお知らせ】

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

もし少しでも「面白かったよ!」「この先が気になるな~」と感じていただけたら、☆や「ブックマークに追加」で応援していただけると、とても嬉しいです。それが作者の元気の源になります(笑)

次回もぜひお楽しみに♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ