第33話 魔獣登場!
俺はウナギの白身に串を刺し、ついに焼く工程に入った。
ウナギは魔導コンロで焼いてもいいが、炭火で焼けば本物の味になる……。
しかし!
「お、俺の異次元デパ地下には、炭火焼き用の道具の在庫がない……!」
な、なんてこった……。
炭火焼き用のコンロ――「七輪」がないと、本物のうな重にはならない!
俺は愕然とした――。
「いえ……ウナギはちゃんと、炭火で焼けるわ……」
な、何ぃっ?
ポレットの足元にあるのは、七輪じゃないか!
と、陶器でできた円柱形の炭火焼きコンロだ!
「こ、これさえあれば、ウナギの炭火焼きが可能だ! い、一体どうやって手に入れたんだ?」
「私の……異次元デパ地下に在庫があったのよ。頼んで取り寄せたわ」
ポレットが静かに笑った。
「私も……ドラゴンフィッシュを捕まえたおかげで、ウナギを焼くための道具が増えたみたい……」
さ、さすがポレット!
幸い、ここは屋外だし、地面に土が見えていて七輪を使うのに適した場所だ。
俺はすぐに――魔導コンロで熱した木炭をトングで取り、七輪に入れた。
『皆さん――あと15分で、調理時間が終了です!』
おおっ……魔導拡声器で放送があった。
そろそろ野外料理の審査の開始時間か!
は、早くうな重を作り上げねえと……!
「だが、これで本物のうな重が作れるぜ!」
俺はすぐに串に刺したウナギを七輪で焼き始めた。
ウナギの脂がはぜ、香ばしい煙が七輪の上にゆっくり立ちのぼる。
焼きつつ、ウナギの裏側をノートであおぐ。
「――時間がきた! 準備せよ!」
ん? 突然、ベクターが声を上げた。
「血に染まった我々の最高傑作ができあがります! ラムゼイッ、出番ですよ!」
ベクターが叫ぶと、すぐにホワイトクラスの数名が森の奥に入っていき――。
森の奥に隠してあった、巨大な鉄の檻を引っ張り出してきた!
檻の下には滑車がついていて、容易に動かすことができるようだが……何なんだ?
「うわっ、なんだ?」
「で、でけえええ!」
「す、すげえことになってきたぞ!」
学生たちが檻を見て声を上げた。
檻の中には巨大なイノシシ――いや、魔獣が閉じ込められていた!
「魔獣グレイトギャリー……エルサイド島に棲むイノシシ型魔獣よ……」
ポレットが俺に解説してくれた。
う、うおっ、イノシシ型魔獣が鋭い目で俺たちを睨みつけている!
「……きっと、猟師に依頼して、捕獲したのね……。魔獣といっても、生態はほぼイノシシと変わらないわ」
魔獣グレイトギャリーは恐らく体長四メートルくらいあり、通常の大人のイノシシの二倍以上はある大物だ!
「グウウオオオオオ!」
グレイトギャリーはすさまじい声で咆哮した。
地面に響き、空気すら震えているようだ!
魔獣は今度はホワイトクラスの連中を睨みつけはじめたが……ホワイトクラスのヤツら、何をやらかそうってんだ?
「やれいっ!」
な、何だと?
ベクターの号令で、ホライトクラスの連中の手により檻が取り外された!
すると――ラムゼイという長身のホワイトクラスの生徒が、グレイトギャリーと対峙した。
「では、参る――」
ラムゼイはサーベルを持っているが、ま、まさか……。
「グウウウウオオオオオッ!」
グレイトギャリーがラムゼイに飛び掛かった。
おい――ラムゼイってヤツ、噛み砕かれて死ぬぞ!
だが――!
「斬ッ」
骨を断つような斬撃音が響いた。
う、うおおおっ!
サーベルがグレイトギャリーの首筋を一閃し、血しぶきが噴き出した。
「す、すげえ」
俺は唸った。
ブシュー……。
まだ血が噴き出している音がしているぜ。
「やべえもん見ちまった……」
俺は呆然としていたが、ニコルとポレットは屈んでラムゼイのほうを見ないようにしている。
あまりにも凄惨な光景だからだ。
一方、グレイトギャリーの血液を、レインコートを羽織ったホワイトクラスの生徒たちがバケツで受け止める!
「な、何をしたんだ、ベクター!」
俺が聞くと、ベクターはひょうひょうと答えた。
「グレイトギャリーは肉質はよろしくないが、生血を飲む愛好者がいるくらい、美味い血液を持っている――」
「お、おい……血をどうする気だ?」
「僕の料理『シヴェ・ド・サングリエ』に使う!」
ベクターは椅子に座ったまま、乾いた笑いを発した。
「魔獣イノシシ、グレイトギャリーの血を使うことにより、本物の『シヴェ・ド・サングリエ』になるのです!」
うーむ……ベクターもやりやがる!
まさか魔獣の血液を味付けに使用するとは。
『あと5分で調理終了時間です! 料理の提出準備を始めてください!』
放送係もせかしている――。
もう時間がない!
「仕上げだ!」
俺は焼いたウナギにタレをかける。
このタレは醤油、みりん、砂糖、酒を煮つめたものだ!
「魚に甘辛いソースだと……?」
ガルダスは俺のほうをジロリと見た。
「リ、リクトの野郎、菓子でも作る気なのか?」
「よっしゃ――仕上げだ!」
俺はニコルやポレットが炊いてくれた白米を重箱によそい、焼いたウナギをのせた。
そして――。
「これこそが奥の手だぜ!」
俺は厨房の魔導食品乾燥機から、小さい緑色の木の実を取り出した。
よし、カラカラに乾いており、すりつぶせばすぐ粉になりそうだ。
「な、何だ! 何をしているのです。そ、その木の実は……?」
ベクターがこぶしを握って、俺を睨みつけた――。
大袈裟な魔獣退治ショーもいいが、俺は本物の「和食」を審査員に提出するぜ!
『調理終了――各自、料理を審査員に提出してください!』
ま、間に合った……!
うな重――。
完成だ!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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