第32話 野外料理審査開始!
銀色の五十台の厨房がある草原で、俺たち生徒の課題の審査が始まろうとしている。
俺はリクト・ロジェ。
グレゴリー料理アカデミーの新入生だ。
「よしっ、やるぜ!」
この審査に勝った者だけが、「学校対抗料理選手権」に出場できる!
俺が魚籠からウナギを出し、氷水で泳がせ身を「締め」させているとき――。
「す、すげぇ! 何だ、あれは?」
「ホワイトクラスのベクターだ! や、やはりあの人たちか!」
周囲の学生からどよめきが起こった。
ベクターとガルダス、そしてなぜかフェリクスが一緒に草原に入ってきた。
フェリクスがでかい台車を押しているが……?
「う、うおおおっ……や、やべぇ!」
学生たちは悲鳴に似た声を上げた。
し、死んだでかいイノシシ一頭が、台車の上に置かれていたからだ!
まるで錆びた鉄のような、重い血の臭いが周囲に立ちこめた。
「フフッ、リクト君! 探しましたよ――」
ベクターはわざわざ俺を見つけてクスクス笑った。
「このイノシシが僕らの料理『シヴェ・ド・サングリエ』の材料ですよ!」
「シヴェ・ド・サングリエ! 知ってる! すごく有名な料理だよ!」
ニコルが声を上げた。
「サングリエはラシェール地方の言葉でイノシシを表す言葉だから……。『イノシシの赤ワイン煮込み』という意味ってわけ!」
「フフッ、リクト君! 最高のジビエ料理をお見せできると思いますよ」
ベクターは、簡易テントの下で涼んでいるグレゴリー校長たちを見やった。
「あの校長には野生そのものの味を味わっていただきます! では――勝負!」
ベクターとガルダスは俺たちのすぐ後ろの厨房を陣取った。
俺たちも急いで「うな重」を作らないと……今15時で提出期限が16時……時間がない!
俺は異次元デパ地下のインフォメーション・ウィンドウで在庫を確認した。
「どれどれ……おおっ……?」
【◇現在の商品の在庫◇】
【エビ 在庫3パック(6匹)】
【米 在庫1袋(5kg)】
(中略)
【卵 在庫3パック】
【みりん 在庫2本】←NEW!
【粉山椒 在庫1本】←NEW!
【カツオブシ 在庫1本】←NEW!
【昆布 在庫1枚】←NEW!
よし、ドラゴンフィッシュ……ウナギを捕まえたから材料が増えてるな……。
さっき、ジョウイチの記憶をダウンロードしたので、うな重の作り方を少しずつ思い出してはいるが……。
「ニコル、ポレット! 米を炊いてくれ! やり方を教える」
俺は米の研ぎ方、鍋での炊き方を二人に教えた。
「それじゃあ、俺はウナギを捌くぞ!」
まずウナギの首元に「目打ち」という杭を打ち込み、まな板にウナギを固定する!
そして背中に包丁を入れ、滑らせるように捌いていく。
「う、うむっ……! リクト君のあの包丁捌き……!」
ベクターの声が俺の後ろから聞こえた。
ウナギが二つに切り裂かれ、白く輝く美しい白身が見えた。
おっと、内臓を取り除かねえとな。
「み、見事ですよ、リクト君……!」
ベクターは俺の後ろで、俺のウナギ割きの様子を見ていたようだ。
「ど、どこでそんな技術を身につけたのですか?」
「さあね? 俺の前世が全部知ってるらしいぜ」
「前世? バカなことを……。フフッ、あの禁足地で色々見たってわけですか?」
「ま、面白いものは見たさ。だけど一番の収穫は、このウナギだ!」
ウナギの中骨をはがしつつ、尾を切り落とした。
血を取り除きながら頭を落とし、白身を半分にし上下に配置――!
「や、やりやがるっ! なんてスムーズな捌き工程だ?」
ガルダスも俺の捌きを見て声を上げている。
「だ、だが、俺らの料理も最高のものだ! すでに俺のスキル『時間短縮調理』でイノシシ肉の熟成は終えてある」
「ガルダス、見せてもらいますよ――。私は監督させていただきます」
ベクターはゆっくりと椅子に腰掛けた。
な、何だと?
ベクターの野郎、調理に関わらないのか?
「ガルダス、私の指示通りにやってください。ミスをしたら、どうなるか分かっていますね?」
「あ、ああ……ベクター。ホ、ホワイトクラスからは追放だ」
ガルダスは棍棒のような太い腕で、額の汗を拭いた。
そして彼はイノシシ肉を素早く解体し捌き――ボウルに入れた。
うーむ……このデカブツもかなりの肉の捌き技術を持ってやがる……。
「この下ごしらえのマリネが、『シヴェ・ド・サングリエ』の味の要だぜ!」
イノシシ肉を、刻んだ玉ねぎやにんじん、ニンニクやハーブ類、そして赤ワインに漬け込んだ。
「むううんんっ! 時間短縮――!」
ガルダスが肉に手をかざすと、手の周囲に蜃気楼のようなものがぼんやり見えた。
こ、これがガルダスのスキル!
調味液の浸透率を、スキルによって速めているというわけか……!
「さあ、俺も焼くための前準備だ!」
俺もうかうかしてはいられない。
ウナギに串を計四本、刺していく。
「さ、魚の身に串を刺した? そんな料理、見たことがないぞ!」
ガルダスが目を丸くした。
「リ、リクトの野郎っ! き、奇妙な技法を披露しやがってぇ!」
一方、ベクターは汗を拭い、椅子に深く座って俺を見つめた。
「ほ、ほほう……。これが噂のリクト君の料理技法ですか。小癪な……い、いや、なかなか面白い……」
ベクターは余裕のある軽口を言いつつも、目は狙撃手のように俺を睨みつけていた。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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