第30話 漁師たちの秘密、そしてうな重
グレゴリー校長が持ってきたビンには、『難病に効くドラゴンフィッシュエキス』と書いてある。
「禁足地はこのインチキ詐欺エキスを量産するための、工場がたくさんある場所よ!」
グレゴリー校長が声を上げると、漁師たちは一歩たじろいだ。
「ふ、ふん……。『ドラゴンフィッシュ』には、精力剤としての効果があることを知らねえのかよ」
長髪の漁師がニヤけた。
しかしグレゴリー校長は毅然と首を横に振った。
「『ドラゴンフィッシュ』……つまりウナギには精力剤としての効果はありますが、このビンには『医薬品』と書いてありますね」
「だ、だからなんだ?」
「ありえません。ウナギは『医薬品』として販売はできないのです」
「はあ? いや、できるぜ? ヤツメウナギは栄養の補助として医薬品として販売することがある」
「無理ですね」
グレゴリー校長はきっぱり主張した。
「確かにヤツメウナギは、栄養素を摂取するために医薬品として販売されています。――が、このドラゴンフィシュ――普通のウナギとヤツメウナギは別の生き物ですよ」
「くっ……し、知ってやがるのか……!」
漁師たちは苦い顔を見合わせている。
グレゴリー校長の知識がここまであるとは思わなかったようだ。
「このウナギが『医薬品』になることは絶対にありえません!」
グレゴリー校長は声を張り上げた。
「そもそもこの『ドラゴンフィッシュエキス』は『難病に効く』というウソを書き連ねた詐欺商品です!」
「てめぇ……婆ぁ……。こ、このエキスを飲めばもしかしたら、な、難病に効くかもしれねえじゃねえか!」
「医学的に証明されていないものを、『難病に効く』と称して販売することは詐欺行為ですよ!」
グレゴリー校長は「ドラゴンフィッシュエキス」を長髪の漁師に見せつけた。
「一つ10万ルピーで……今までいくら儲けたのですか? 神殿の裏はドラゴンフィッシュの生息地ですから捕り放題ですねえ」
グレゴリー校長は眼鏡の位置を直した。
「それはそれは儲かったでしょうね――『スキル研究所』を『禁足地』と称し隠し通したのですから!」
「あっ……そ、そんなことまで! ぐ、ぐぐっ……!」
長髪の漁師は目を丸くして、グレゴリー校長を睨んだ。
ど、どういうことだ?
スキル研究所?
「し、知っていたのか、き、禁足地の本当の正体を……」
「ええ、知っていますとも。私の夫……通称『グレゴリー・ジョウイチ』が建造した研究所ですからね。それを勝手に聖地としてあがめられては困りますねえ」
夫……?
グレゴリー・ジョウイチ?
俺はまだこの言葉の意味を理解できなかった。
「こ、この婆ぁ……。や、やべぇぞ!」
漁師たち三人は後ずさり、やがて一目散に逃げ出した。
「こ、校長先生! どういうことなんですか?」
俺があわてて聞くと、グレゴリー校長は腕を組んでつぶやいた。
「食品全般の知識で私と張り合おうなど、百年早い――それを教えてあげたまでです」
そしてため息をつき、すぐに口を開いた。
「無駄話をしている暇はありません、リクト君! あなたは野外料理を提出しなければなりませんよ!」
「あ、そ、そうでした!」
「保養所の外の野外キャンプ場には、料理アカデミーと同じ厨房施設があります! 行ってごらんなさい!」
ええっ……?
俺とポレット、ニコルは顔を見合わせた。
◇ ◇ ◇
保養所の外の裏手に回ってみると、そこにはすでにたくさんの生徒たちがいた。
そして、広い原っぱに銀色の光り輝く厨房が、五十以上も並んでいた。
レンガのかまどもある。
「マ、マジですっごい……。こ、こんな場所があるなんて!」
ニコルはうなったが、グレゴリー校長がうなずいた。
「雨風に耐えうる素材で製造した、特殊素材の野外用厨房です」
一緒に来たグレゴリー校長は静かにつぶやいた。
「グレゴリー料理アカデミーは野外料理施設にも手を抜かない! 生徒が料理しやすい環境を完璧に提供します!」
「ま、まさかエルサイド島でも、あのたくさんの厨房があるなんて……」
ポレットも驚いている。
特殊素材の銀色の厨房が太陽光を反射し、周囲に美しい輝きを散らしていた。
俺たちは五十番の厨房に行き、その厨房の前に立った。
「さあ、何を作るの? あたし手伝っちゃうよ~!」
ニコルはやる気満々だ。
「うーん、恐らくドラゴンフィッシュ……つまりウナギの料理を作ることになると思うが」
――その突如――。
俺の頭の中に、軽快な音が響いた。
【◇クエストが発生しました!◇】
【クエスト③:ドラゴンフィッシュ……ウナギを使い、『うな重』を作れ!】
【難易度:レベルB(☆☆☆)】
【報酬:「異次元デパ地下」の食材、道具類が増える】
「へ? な、なーんそれっ?」
俺が「インフォメーション・ウィンドゥ」を手から放つと、ニコルが目を丸くした。
しかし、ポレットは冷静だった。
「『異次元デパ地下』のインフォメーション・ウィンドウね……」
「ああ」
俺はうなずいた。
「だが、うな……重だと? 聞きなれない料理だな。一体、何なんだ?」
そのとき、俺の頭の中に声が響いた。
『リクト――うな重の知識を送るぜ! 俺の記憶をダウンロードしろ!』
ジョ、ジョウイチの声だ!
う、うな重とやらの知識?
すると俺の頭の中に、一瞬にして――日本の厨房の風景が入ってきた。
「……こ、これがうな重なのか?」
は、白米の上に、トロリとした焼き魚がのせられた料理だ!
今まで寿司、天ぷらと料理してきた……。
このうな重という料理は、その二つの料理同様、俺の常識をはるかに超えていた……!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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