第26話 ホワイトクラスのコンソメスープの謎
「レイチェルさん、お聞きしましょう。何をそんなに疑っていらっしゃるのかな?」
ベクターはため息をつき、大袈裟に困ったような声を出した。
しかし――。
「このコンソメスープの完成度なら『下ごしらえ』『クラリファイベース』『清澄化工程』『仕上げ』で少なくとも四時間以上はかかるはずだ!」
レイチェルは鋭くベクターに指摘した。
「しかし我々はこの保養所に、二時間前に到着したばかり。材料の選定、道具の準備などを加えて考えれば、二時間ではとてもできない代物だ!」
「……それができるんだよ」
ガルダスがニヤリと笑った。
「俺たちホワイトクラスはほぼ全員、ずば抜けた才能か、もしくは『スキル』というものを持っているのでな!」
な、何だと?
ス、スキルだって?
つまり俺の謎のスキル――「異次元デパ地下」のようなものか?
「い、言っている意味が分からんぞ。ス、スキルって何だ?」
レイチェルは困惑した表情を浮かべているが、ベクターはニヤけたままだ。
「今回は俺のスキル――『時間短縮調理』。そいつで素早く仕上げたぜ!」
ガルダスは胸を張ってそう告げた。
じ、時間短縮調理だと……?
異次元デパ地下とは違うスキルなのか?
「――ところでリクト君、僕らと一緒に、『禁足地』に行ってみませんか?」
すると急にベクターがそんなことを口走ったので、俺は呆気にとられた。
「は? ――お前、何を言って……」
き、禁足地に行く?
俺はあわてた。
「おいおいおい! そりゃヤバいだろう!」
「何が? 禁足地に行くのがヤバい? バカバカしい」
ベクターは半ばバカにしたように笑った。
「昔の古代人が勝手に崇め奉った風習にいつまでこだわっている? どんどん調査すれば良いのです。遠慮はいりませんよ」
「バカじゃねえのか、お前! あの校長に知られたら退学になるぞ!」
「では、スキルと前世についての秘密が、禁足地に行けば分かると言ったら?」
「な、何だと?」
「禁足地に行ってみたくなってきたでしょう?」
俺の額から冷や汗が流れた。
お、俺を今まで救ってきてくれたスキル「異次元デパ地下」と前世の「ジョウイチ」の秘密だと……?
そ、それが禁足地に行けば、分かるというのか?
「――騒々しい! またケンカですか?」
そのとき――聞き覚えのある鋭い声が食堂に入ってきた。
グレゴリー校長だ!
生徒全員、背筋を伸ばした。
「料理人として競い合うのはよろしい! しかし私闘は認めていませんよ!」
「こ、校長、時間がありません――そろそろ『課題』のことを話してよろしいかと」
ボウハラ先生がグレゴリー校長に耳打ちすると、校長はうなずいた。
「では、明日の朝の『課題』のことをお話しましょう!」
グレゴリー校長は俺たち生徒を、ゆっくり確認するように見回した。
「今回、皆さんは三名一組になって行動し、野外で食料を採取して料理を提出してください」
なるほど、こないだ寮の食堂で言っていた野外の料理勝負ってわけか。
「私たち教師が料理の審査をします! 審査に勝ち残った三名は『学校対抗料理選手権』に出場できます!」
そしてグレゴリー校長は、つぶやくように耳を疑うようなことを話し始めた。
「ここ、エルサイド島には『人が立ち寄らない場所』があり、そこには非常に貴重な食材がたくさんあると聞きます。私ならそこに潜入し、野外料理を調理しますね」
……ん?
俺たちは顔を見合わせた。
「人が立ち寄らない場所」って……ま、まるで「あの場所」のことを言っているみたじゃないか!
「校長がおっしゃっているのは、『禁足地』のことですよねっ?」
ベクターが楽しそうに聞くと、グレゴリー校長は真顔で口を開いた。
「私の言葉を、どのようにとらえようと自由ですよ! あなたたち生徒は、最高の野外料理を追求すればよろしい!」
な、何だとおおお?
禁足地に入ることを、黙認するってことか?
い、いいのかよ?
「こ、校長! よろしいのですか? 地元民から抗議がきます!」
エミリア先生は真っ青な顔をして、校長に問いただした。
しかし校長は構わず、生徒たちの目を覚まさせるように、パシン、と両手を叩いた。
「さあ、旅行気分はおしまいですよ! 料理人として戦いのときがやってきました!」
校長の鷹のような鋭い目が光った。
「課題開始は明日、午前の10時からです!」
しょ、正気なのか、この校長……!
あ、あの地元民の漁師との騒動を無視して、俺たちに「禁足地」に入れと言っているようなもんじゃないか!
「だ、大丈夫かよ」
「でも、ワクワクするぜ」
「禁足地……ちょっと興味があるな。野生のイノシシがいるらしいぜ」
生徒たちは口々に話している。
ボウハラ先生もエミリア先生も、困った顔で顔を見合わせている。
しかし、グレゴリー校長だけは俺たち生徒を真正面から見つめていた……!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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