第23話 前世が視れる島、エルサイド島へ!
一週間後の朝――。
俺たち新入生二十五名とホワイトクラス二十名は、グレゴリー島から南に魔導高速船で南下中だ。
これから俺たちは自然豊かなエルサイド島へ、野外料理を作りに行く。
「まさか入学早々、臨海学校とはな……まったく型破りなアカデミーだぜ」
俺は甲板で、晴天の空を反射する海を眺めながら言った。
船は水しぶきを上げ、白い波を引いて海を移動している。
――だが突然――!
「ん? ……う、おっ」
ぐわん!
そんな音とともに、高速船が一瞬大きくぐらついた。
な、何かにぶつかった音がしなかったか?
「大丈夫だ、大きな魚に当たっただけだろう!」
船員が声を上げた。
な、何だよ、驚いたな……。
「ふう……ところっで一体、エルサイド島ってどんな島なんだ?」
「ええ、常夏の島であることは間違いないのですが……」
ミアは眼鏡の位置を直し、神妙な顔をした。
――潮風の匂いが俺たちを包んでいる。
「『前世との繋がり』を視ることのできる、不思議な島らしいのです」
なっ……何だと?
ぜ、前世といったら……ジョ、ジョウイチ……!
あ、あの人のことが分かるってのか?
「おい、それはどういうことなんだ? 前世との繋がりが視れるって、おい! ミア!」
「きゃ、きゃあ! リクトさん……」
俺が興奮したものだから、ミアがちょっとおびえている。
「こらっ! ミアに襲いかかっちゃダメでしょ、このゲス野獣!」
アイリーンが俺の後頭部にチョップをかました。
「痛ぇ! わ、悪かった。でも、前世があることが証明できるってことなのか?」
ん?
――またしても船が揺れた!
「おおおっ!」
ゴゴン!
低い音が船の下で響いた。
や、やっぱり何かいるのか?
「だ、大丈夫か?」
俺は転んでいるアイリーンとミアを助け起こした。
「この辺りはクジラの生息地……高速船とよくぶつかるそうです」
後ろから聞き覚えのある、軽い声が聞こえたので俺は飛び上がりそうになった。
ベクター!
クジラ……? そんなにしょっちゅうぶつかるのか?
「ところで――前世なんて、そんなものはないですよ、リクト君」
ベクターはひょうひょうと言った。
前世……さっきのエルサイド島の話か。
「料理人は科学者と同じですよ。もう錬金術師や魔法使いのたわごとの時代ではありません」
「だ、だけどよ、ちょっとは信じてもいいんじゃねえか?」
「ほほう」
ベクターはニヤリと笑った。
「まるでリクト君は、自分の前世を知っていて、その存在が本物かどうか確かめる――。そのように考えているような口ぶりですねぇ」
……な、何だこいつ?
す、鋭いヤツだ。
俺がベクターを怪訝な顔で見ていると、彼は銀髪をさらりとかき上げた。
「分析をしたまでですよ。君の発言をね」
ぶ、分析だと……?
「前世ねえ……! 前世とやらがあるのなら、今世の僕が支配します」
「ど、どういうことだ?」
「前世の影響を完全に封じ、僕が人生の主導権を握るということです! 僕の人生は僕が支配する……!」
よ、よく分からんが、支配支配ってうるせえな、こいつは。
ベクターは理解不能なことを言いつつ、ホワイトクラスの仲間のほうに行ってしまった。
「ベクター! あの生意気なリクトって新入生の相手をするなよ」
「ベクターさん、今日の予定ですけど……」
ベクター……あいつ、ホワイトクラスの中心人物のようだな。
ホワイトクラスは学年関係なく集まっている、相当特殊なクラスらしい。
一年生もいれば三年生もいるし、二年生のベクターもホワイトクラスに在籍しているのだ。
「……何でも『前世』を視れる場所があるらしいんだ」
ん?
レイチェルがアイリーンにそう話しているのが聞こえた。
「私も詳しくは知らない。でも、エルサイド島には面白い食べ物がたくさんあるそうだ。私はそっちが楽しみだよ」
前世を視れる場所ねえ……ふむ。
そのときだった――。
「グウウオオオオオッ!」
そんな低い唸り声が聞こえた瞬間――。
海から巨大な生物が顔を出した。
ま、真っ赤な海坊主……いや、クジラか?
「う、うわああああーっ!『ディープゴンテ』だああっ!」
船員たちが叫んだ。
「ぶつかったら船が破壊されるぞおおお!」
ディープゴンテ……し、知ってるぞ!
南の海域に住む、クジラに似た魔物じゃねえか!
「全員、船の内部に入れっ! 海に投げ出されるぞ!」
船員の大声が聞こえる。
巨大なクジラ――いや、クジラ型の魔物、ディープゴンテは、俺たちの船に向かって突進してきた。
エルサイド島はもう向こうに見えているってのに……!
「う、うわあああーっ!」
ガウンッ
という鈍い音とともに、衝撃が走った。
船が唸りをあげ、重力が足元から消えたようだった。
「う……」
俺は頭をどこかにぶつけた。
俺の頭の中は――真っ白になった。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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