第22話 ホワイトクラスとの抗争
「料理は潰し合いですからねぇ……。我がホワイトクラスに逆らえないよう、君を支配してあげましょう!」
ベクターはそう言って冷たい笑みを浮かべたが、俺はベクターたちを睨みつけた。
「ちょっとやめてよ!」
いつの間にか食堂に来ていたアイリーンが声を上げた。
レイチェルとミアも心配そうに俺を見つめている。
他の生徒も驚いたようにこっちを見ている……。
「同じアカデミー生同士でケンカなんてバカげてる!」
「フフッ、ケンカじゃないですよ。僕は、リクト君たちを正しく『導こう』としているだけなのです」
ベクターは恐ろしいことをつぶやいている。
「こらあ! 何をやっているんだ!」
ボウハラ先生が食堂に飛び込んできた。
「やかましいと思ったら……ケンカしてやがるのか? ガキじゃあるまいし!」
「そ、その前にだな! ……ボウハラ先生、この寮はおかしい!」
レイチェルが声を上げた。
「窓には鉄格子がはまっている! 鍵は三重……この寮は監獄か? 一体、どういうつもりだ?」
他の新入生もうなずいている。
そ、そうだ、ベクターとケンカしている場合じゃない。
あんな不気味な部屋じゃ生活できないぜ。
「む……」
ボウハラ先生は言いづらそうにした。
「この寮は学園のものではない」
「ど、どういうことですか?」
アイリーンは詰め寄ったが、ボウハラ先生はため息をつくばかりだ。
「この寮は、我々グレゴリー料理アカデミーの管轄外、ということだ! それ以上は何も言えん!」
「アハハハハ! アカデミーの管轄外だってさ、リクト君!」
ベクターは楽しそうに手を叩いて笑っている。
こ、こいつ……何か知ってやがるのか?
「ま、まあ見た目は悪いが、次第に慣れてくる。それとも西の森のオンボロ寮に住むか?」
上級生から悲鳴が上がった。
そのオンボロ寮はよほど忌み嫌われているんだろう。
選択肢はこの寮だけってわけか。
「よぉよぉ、ボウハラ先生! 生意気なこの青生徒をこらしめて良いですかね?」
ガルダスが、でかい岩のような拳の骨をポキポキ鳴らしながら言った。
「学校対抗料理選手権――出場できる生徒は三人しかいねえ」
三人か……!
「今年はどうやって決めるんですかねえ? 料理勝負で潰し合い――それが一番納得できるんじゃないスか?」
「血の気の多い生徒たちだこと」
そのとき、どこからか聞き覚えのある上品な声が聞こえてきた。
「モニターで面白く見せてもらったわ」
グ、グレゴリー校長が食堂に入ってきた――まるで、最初からこの騒ぎを「観察」していたみたいだ……?
上級生たちが――そしてベクターやガルダスまでもが一同に背筋を正し、整列した。
ボウハラ先生も直立不動だ。
「あなたたちケンカが好きなのね? では、リクト君たちとベクター君たちで料理勝負といきましょう」
グレゴリー校長は微笑みながら、俺とベクターを交互に見た。
お、俺はそんなこと望んじゃいないが。
「何か賭けたほうが面白いわね。リクト君たちは負けたら一ヶ月の通学停止……」
おいおいおい……何、勝手に決めてんだ、このオバサン。
お、俺はアカデミーに入ったばかり……新入生だぞ!
「そしてベクター!」
グレゴリー校長の鋭い声に、ベクターは初めて動揺した顔付きをみせた。
あ、あのベクターが気圧されている……!
「あなたたちはリクトたちにホワイトクラスの座をゆずる。それで良いわね?」
「えっ? そ、そんなバカな!」
ベクターはグレゴリー校長を睨みつけた。
そしてすぐにあわてたように訴えた。
「ぼ、僕は努力でホワイトクラスの座を勝ち取ってきた。なのになぜ、新入生にホワイトクラスの座を……!」
「結局、実力がないと、ホワイトクラスに残ることはできない……そうだったわね?」
グレゴリー校長は鷹のような目でベクターを見た。
「ベクター、何か文句が?」
「あ、うう……っ」
ベクターは一歩たじろぎ、椅子に背中をぶつけた。
その瞬間、彼の目が泳いだがすぐに口角を上げた。
「か……勝てば良いんでしょ、勝てば」
そして俺を鋭く見た。
「問題ない。我がアカデミーの最強クラス、ホワイトクラスが青や緑制服ども……下級クラスに負けることはない、絶対にだ!」
「では一週間後、保養地に出かけて野外勝負で料理――といたしましょう」
グレゴリー校長は楽しそうに俺とベクターの顔を見た。
「場所はグレゴリー島の南の島――エルサイド島。自然豊かな島ですよ。新入生は全員参加です!」
や、野外料理だと?
経験したことのないチャレンジだ――!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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