第21話 謎の少年、ベクターの学校案内
『焼け焦げるか、光り輝くかはあなたたち次第。覚悟なき者は、去っていただきます!』
俺たちは、背筋をきちんと伸ばさざるを得なかった――!
◇ ◇ ◇
入学式が終わり、体育館の外に出て売店でアイリーンたちとコーヒー牛乳を飲んだ。
「な、何だ? この常識外れに美味い飲み物は!」
レイチェルが声を上げたので、俺は呆れた。
「お前……コーヒー牛乳を知らないのかよ。文字通りコーヒーと牛乳を混ぜただけだぜ」
「わ、私の父親は厳しくて、水かお茶しか飲めなかったからな……」
「面白ーい」
アイリーンとミアが庭園前のベンチで、キャッキャと騒いでいる。
配布された携帯端末をいじっているのか。
受験や入学式も終わり、緊張感から解放されたからな。
「リクト、あれは【WENDY】というものだ。グレゴリー料理アカデミー専用の携帯端末だ」
レイチェルが俺に説明をしてくれたので、俺は質問を返した。
「この機械、WENDYって名前なのか。でも単なる学生証代わりだろ?」
「それもある。が、世界中の食べ物、道具、料理をすべて検索できるらしい。連絡事項もこれに入ってくる」
「ケンサク……?」
「例えばだな……お前と私が作った『天ぷら』……ほら」
レイチェルが自分のWENDYの画面を俺に見せつけた。
「あっ!」
た、確かに天ぷらの画像が映し出されている!
「……ど、どうしてだ? なんで天ぷらが検索できるんだ?」
「そりゃ世界中の料理が検索できるからな」
レイチェルは得意気に言ったが――そういうことじゃない。
天ぷらはこの世界の食べ物ではない。
「ジョウイチ」の世界の食べ物だぞ……検索できるなんて変だ!
「きっと誰かが『天ぷら』という料理を書き込んだんですよ」
そのとき――。
男なのか女なのかよく分からない細い声が、後ろからした。
「ん? あんたは?」
白い学生服……う、うおっ! せ、背が高い!
し、身長は190センチ以上あるか?
「やあ、僕はベクター・ローバルフォードです。リクト君はランゼルフ料理アカデミーでラーパス君を倒した……」
「あ、ああ。よく知っているな」
「噂は知っていますよ、……フフッ」
な、何だ? この不適な笑みは……そ、それにしてもこいつ……。
「せ、背が高ぇなぁ……」
銀髪で、ずいぶん色白の男子だ……女生徒にモテそうだな。
と言ってるそばから、女生徒がこのベクターを見てざわつき始めた。
「俺はリクト・ロジェだ。白い制服を着ているな」
「僕は『ホワイトクラス』というものに属しています。その制服です」
「えっ! ホワイトクラス?」
ミアが目を丸くして、ベクターに近づいた。
「ベクターさんはホワイトクラスなんですか? す、すごいですね!」
「ええ、ホワイトクラスですよ」
ベクターは白い歯を見せて、涼しげに笑った。
俺は初めて聞く言葉に首を傾げ、ミアに聞いた。
「何なんだよ、そのホワイトクラスってのは」
「緑や青の学生服は出自で決まります。でも、白い学生服の人は、実力で勝ち取り、最高の授業、待遇が受けられる人たちなのです!」
ミアは興奮気味に説明した。
おいおい、そんなクラスがあるなんて聞いてねえぞ。
「……そんなことよりリクト君。僕が学生寮を案内しますよ。一緒に来てくださいますよね? ねえ、リクト君!」
な、何だよこいつ?
やけにグイグイくるヤツだな?
「さあ……学生寮に行きましょう。あの監獄へ……」
ベクターは冷たい笑みを浮かべ、さらりと銀髪をなでた。
は? 監獄?
「リクト君、君なら『支配』しがいがありそうだ……」
ん?
今、何か変なことを言わなかったか、こいつ。
◇ ◇ ◇
「で、で、でかい! この学校の建物は全部でかいけど、学生寮まで……」
俺とベクターは一緒に敷地内の西にある、学生寮に行った。
大きなピラミッド型の白い建物が、二棟建っている。
「左は女子寮、右は男子寮です。――君の学生証を見せてください。君の部屋は……207号室ですね」
ベクターは俺のWENDYをひったくり眺めまわし、言った。
だが……俺の自室に恐ろしい仕掛けがあるとは、このときは気づかなかった……。
◇ ◇ ◇
玄関はまるでホテルのロビーのように大きく、ピカピカに清掃されていた。
真新しい油臭いワックスの匂いが漂ってくる。
だが、ベクターのニヤニヤした笑み……何か嫌な予感がするぞ?
「さあ、君の部屋に行きましょう」
207号室は二階にある。
ベッドは木でできており、独特の木の香りがほんのりと漂ってきた。
だが――!
「こ、これは何だ?」
俺が驚いたのは窓だ!
て、鉄格子がはまっている。
扉の鍵も三重になってるぞ?
「あはっ、気づきました?」
ベクターは手を叩いて笑った。
「この鉄格子は生徒が夜中、逃げられないように、という仕掛けです」
「な、なんだとっ!」
「この学生寮は、夜十時以降になると玄関が閉じられ、逃げられないような仕組みになっています……フフフッ。ゾクゾクしますね」
こいつも気持ち悪いが、このアカデミーもおかしい。
俺の頭の中にはグレゴリー校長の顔が浮かんでいた。
あの校長……上品そうな顔しやがって……まさか本当に「悪魔」なのか?
◇ ◇ ◇
俺たちは食堂に来たが、ここは男女関係なく入れる憩いの場所だそうだ。
「おいっ、リクトってのはお前か……!」
えっ……!
巨大な山が動いたと思った。
目の前に坊主頭の熊のような少年が立っている。
「待ってたぜぇ、潰しがいがありそうな男をよ」
熊のような少年が、俺を見下ろしていた。
「俺はガルダス・ボーデン! ホワイトクラスの門番だ!」
こ、こいつ、確かに着ている制服は……白!
「ケンカですかぁ?」
ベクターはひゅうと口笛を吹いた。
「料理は潰し合いですからねぇ……。我がホワイトクラスに逆らえないよう、君を支配してあげましょう!」
こ、この野郎……!
俺はベクターとガルダスを睨みつけた。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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