第20話 入学式!
「合格者――まず一人目!」
ボウハラ先生は金髪の黒服の少年を指差した。
「フェリクス・ダンクセン!」
うーむ? 俺に負けたヤツが合格か?
次々と名前が読み上げられる。
「ガーランド・ジョルジュ! レイチェル・レイクバーグ! アイリーン・ウィントール!」
そして――。
「リクト・ロジェ! 以上、二十五名だ」
ホッ……俺も何とか入り込んだようだな。
合格者は五十名のうち、二十五名――半数。
どうやら試験は審査の勝ち負けではなく、料理の腕、もしくは出自を見られていたらしい。
◇ ◇ ◇
「ようしっ! 皆、集まれいっ!」
ボウハラ先生は合格者だけを校庭に呼び出した。
「お前たちは明日から授業を受けてもらうが、これから大事なことを言うぞ」
先生は俺たち二十五名を見回しながらゆっくり話した。
「我々は今年、『学校対抗料理選手権』に出場する!」
受験生たちはどよめく。
「学校対抗料理選手権」は、新聞でも携帯端末のニュースでも毎年話題になる大きな大会だ。
若い学生たちが全力で学校を代表して競い合うんだ――話題にならないわけがない。
「相手は強豪校ばかりだ。各自、交流を深めておくこと。チームワークが大事となる」
「チ、チームワークだって?」
フェリクスがいきなり声を上げた。
「まさかこんなヤツと仲良くしろというわけか? リクトなんぞと仲良くできるかっ!」
フェリクスは俺を名指しした。
まったくこいつは……。
「好きにしろ! だが――」
ボウハラ先生は腕組みをしつつ、俺たちを眺める。
「お前らが勝ちたいのなら、嫌なヤツと協力する必要は出てくるかもしれないぜ!」
そして続けた。
「勝たなければいつでも退学だ――この学校は厳しい、肝に銘じておけ!」
俺とアイリーン、レイチェルは顔を見合わせた。
勝たなければいつでも退学?
と、とんでもなく厳しい学校だな?
「後で制服と携帯端末の【WENDY】を配布する! うむ、まあ――」
ボウハラ先生の顔が少しゆるんだ気がした。
「今日は説明はこれくらいにしておく――では二時間後、すぐ入学式だ! 制服に着替え、体育館に集合! ――時は金なり、だ!」
も、もう入学式なのか――さすがグレゴリー校長のアカデミーだ!
◇ ◇ ◇
「ここが体育館か、広いぜ……」
俺は先程、ドーム型料理勝負スタジアムの更衣室で、配布された青色の制服に着替えた。
そしてすぐに巨大体育館に移動し、入学式を迎えることになった。
体育館は木の床の香りがし、ひんやりした空気が俺を包んでいた――広い!
「ちょっとリクト、制服の色が違う人がいるわよ」
アイリーンが俺の右隣の椅子に腰掛けた。
アイリーンも青色の制服で、アイリーンの右隣のレイチェルも青色だ。
だがおかしなことに、フェリクスやガーランドたちは緑色の学生服なのだ。
「……学年で色を分けているってわけでもなさそうだな」
フェリクスもガーランドも一緒に受験をしたんだから、それはありえない。
この学生服の色分けは何なんだ?
「その色は、出自で決められているんです」
俺の前に座っていた丸眼鏡をかけた女の子が、振り返って声を掛けてきた。
体が小さいな……13歳くらいかと思った。
「ミアちゃ~ん!」
アイリーンが猫なで声を出して、ミアの頭をなでた。
おいおい……ネコじゃあるまいし。
「この子はミアよ。彼女は受験のとき、私の協力者だったの」
「ミア・オーリンです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。そ、それはそうと――出自で学生服の色が決まるのか?」
俺は制服の謎を解明したくてミアに聞くと、彼女は眼鏡の位置を直した。
「はい。王族や貴族なら緑、平民や奴隷出身なら青の制服が配布されます」
顔をしかめたのはレイチェルだ。
「むむっ……それは差別じゃないのか? 出自が一目で分かるということじゃないか!」
「あ……そうですね」
ミアは言いづらそうにした。
ミアも青い学生服を着ているので、平民か奴隷出身だということだ。
「リクト……何よ、その目は。ああ、私が青い制服を着ているのはなぜかって?」
アイリーンは聞いてもいないのに、胸を張って話し始めた。
「私は商人の家系なの。貴族に近いけど平民よ」
ほう、初めて知ったな。
「パパはレストランと食料品店を経営してるけど、貴族相手だから結構、儲かっているわ」
「何だ、お前も貴族かと思ったぜ」
「……私の性格が、お高くとまってるとか言いたそうな顔ね」
「まあそうなんだけどな……痛っ! じょ、冗談だ、怒るなよ」
本気で怒りだしそうなアイリーンをなだめていたとき、「おや?」と思った。
アイリーンの後ろで白い学生服を着た少年少女たちが、入学式の準備を手伝っている。
「……今度は白い学生服か? 何者だ?」
気になるが、そんなことよりも俺はミアに別のことを聞きたかった。
「ミア、さっき学生服と一緒に配られた『これ』は何なんだ?」
俺は薄型の新しい携帯端末を取り出した。
説明書? 読む余裕なんてなかったな。
「ああ、それはWENDYと言って――」
『これより入学式が始まります! 新入生はすぐに席につきなさい!』
魔導拡声器により放送がかかり、俺たちはあわてて姿勢を正した。
グレゴリー校長がゆっくり登壇――。
そして口を重々しく開いた。
『グレゴリー料理アカデミーにようこそ』
グレゴリー校長はそう言って、鷹のような目を光らせた。
『私たち教師は、あなたたちの未来と希望を調理する者――!』
ちょ、調理だって?
『焼け焦げるか、光り輝くかはあなたたち次第。覚悟なき者は、去っていただきます!』
俺たちは、背筋をきちんと伸ばさざるを得なかった――!
このアカデミーは――甘くない……!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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