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異世界料理アカデミー ~掃除人の俺、謎スキル「異次元デパ地下」で料理革命~  作者: 武野あんず


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第02話 スキル【異次元デパ地下】って何だ?

その日の夕方――。


「我がレストランに来る客は大貴族や王族だが、牛と豚の肉の違いが分からんバカ舌野郎ばかりだ!」


ボルダー教頭がラーパスの隣に立ち、歌劇のようなでかい声で叫んだ。


俺――リクト・ロジェは仕事が終わっても、教頭夫妻が経営する「レストラン・ボルダー」でこき使われている。


「お偉いお客どもにはクズ肉をお出ししろ! 高額でエサ――いや、食事を提供すれば良い!」


ボルダー教頭のご高説が終わり、副料理長のラーパスも父親そっくりの演説を始めた。


「これは誤魔化(ごまか)しではない! 僕らを見下す奴らへの制裁だ!」


残念ながら、このバカ息子には副料理長の実力はない。


従業員たちは厨房で、親子の大演説に耳を傾けていた。


「教頭め、学校でも怒鳴ってたが、ご自慢のレストランでも相変わらずだ」


俺といえば厨房の隅で床掃除をしながらつぶやいていた。


ボルダー親子は、安い料理を大貴族や王族連中にバカ高く売りつける商売をしているのだ。


「畜生……!」


正直俺は、料理に対する侮辱(ぶじょく)を感じて、拳を握りしめた。


◇ ◇ ◇


俺がレストランで客の皿を片づけていると……。


「ちょっと、責任者を呼んできてくれ!」


前菜の牛スープを飲んでいた王族のお客が、ボルダー教頭を呼びつけた。


ボルダー教頭はお客が王族なら、興奮した闘牛のごとく素早く飛んでくる。


「おや、これはこれは。王族のパリッシュ様。いらっしゃいませ!」


ボルダー教頭とともに、牛スープを調理した息子のラーパスもやってきた。


「このスープ、値段が一杯、3万ルピーか? ちょっと高すぎるのでは? あ、味も油臭くて舌触りも悪く……申し訳ないが味が良くないぞ」

「いやいや、パリッシュ様」


ボルダー教頭はゆっくり首を振って、不満顔のパリッシュ氏をなだめた。


「我が副料理長のラーパスがしっかりアク抜きし、5時間煮込み、透明度を高めた最高のスープです。出汁(フォン)はあのルブソン牧場の子牛のもも肉、骨を使っていましてですな」

「ふ、ふむ……ルブソン牧場とな? 聞いたことはある」

「素人には、油分が多く感じるかもしれません」


王族のお客は首を傾げながらも、深くうなずいた。


だが、ボルダー教頭は大ウソをついていた。


スープに使用した肉は廃用牛をもらってきたもので、最低のクズ肉だった。


「我慢の限界だ!」


俺は意を決して、ボルダー教頭とラーパスの間に割り込んだ。


「パリッシュさん! 俺がこのスープが不味い理由を教えてあげましょう!」


ボルダー教頭、ラーパス、パリッシュ氏も、掃除人の俺が声を上げたので呆然としていた。


「このスープは失敗作です」


俺はスープをすすった。


嫌な油臭さが鼻にまとわりつき、渋みやエグみが舌に残る。


「このスープはまるで油と泥だ! 油臭いのは、アク抜きや清澄化(せいちょうか)(おこた)ったからだ!」

「な、何ぃ?」


飾りだけの副料理長、ラーパスはまるで子牛のように目を丸くした。


「アク抜きや清澄化を怠ると、残留物が残り舌触りも悪く、渋みやえぐみが舌に残ってしまうのです!」

「リ、リクト、貴様っ! 奴隷に料理が分かるものか!」


ボルダー教頭は両手で俺の頭を(つか)み、黙らせようとしたが俺はやめなかった。


「ラーパス、清澄化のときに沸騰(ふっとう)させただろう。卵白の膜が壊れて濁ってしまい、雑味が残ってしまったんだ!」

「ぼ、僕の料理を愚弄(ぐろう)するか! お前の口の中にパンを百個詰め込んでやる!」


俺は無理矢理、ラーパスに厨房の裏に連れていかれ、またも足で顔を踏みつけられた。


◇ ◇ ◇


俺はレストラン二階の自分の部屋を追い出され、屋根裏部屋に閉じこめられた。


俺は安いパンとソーセージをかじりながら、あの親子に逆らったことを後悔した。


奴隷民が料理人になれない現実は分かっているのに……涙で屋根裏部屋の天井が(にじ)んだ。


「ん? そういえば……俺はどうしてさっき、スープのことが分かったんだ?」


え? どういうことだ?


俺は料理人になるのはあきらめ、勉強などはしていない。


さっきはなぜか、アクの取り方、清澄化の方法……まるで一流の料理人のように答えが口から湧き出た。


「お、俺は本当に単なる掃除人なのか? 一体、俺は……?」


◇ ◇ ◇


次の日――。


「ガチョウの肝のごとく、肝の()わった掃除人のリクト君! 君には特別にいつもの十倍の仕事をプレゼントしよう!」


俺が「ランゼルフ料理アカデミー」へ掃除に行くと、すでにボルダー教頭が銅像のごとく待ち構えていた。


ボルダー教頭は俺の胸ぐらを(つか)まえた。


「さあ、さっさと倉庫を掃除しろ! 手を抜いたら、貴様を豚みたいに丸焼きにしてやる!」


そんな様子を、アイリーン・ウィントールは廊下で心配そうに見つめていた。


◇ ◇ ◇


「うわっ! ここを掃除するのかよ!」


俺は倉庫の中に入って愕然(がくぜん)とした。


倉庫とは名ばかりの、(ほこり)とゴミの山だった。


そのゴミの山に美術品や古くさい料理本、使い古した鍋やフライパンなど調理器具が埋もれている。


「俺の人生は掃除人で終わっちまうのかよ。何で奴隷民なんかに生まれちまったんだ?」


俺は悔しくて唇を()む。


いつの間にか目には涙が(あふ)れていた。


「おい、嘆いてんじゃねえぞ、少年。確かに料理は修業みてぇなもんだ。しかし、敵は自分自身だぜ!」


ん?


誰かの声が耳に入ってきたぞ? 幻聴か?


「こっちだ、こっち。トロいな。トロは(まぐろ)か? ガハハ!」

「え? こっちと言われても……うわーっ!」


ゴミに埋もれていた大鏡に、白いコックコートを着た見知らぬ中年男が映っていた。


笑顔に刻まれたしわは、男の深い人生をそのまま表しているようだった。


「俺の名は沢村丈一(さわむらじょういち)。俺はお前の前世だ!」

「……? サワムラジョウイチ……何だ? その変な名前?」

「お前に最強のスキル『異次元デパ地下』を授けてやるよ」

「イジゲンデパ……何?」

「このスキルを手に入れれば、最高の包丁を手に入れたも同然。だが、試験を受けてもらうぜっ!」


へ、変なおっさんが鏡に中にいるぞ!


何がどうなっているんだ?

【作者・武野あんず からのお知らせ】

この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、次回以降もお付き合いいただけると嬉しいです。

本作はすでに「全58話」まで書き終えており、毎日更新を予定しております。

どうぞよろしくお願いいたします。

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