第19話 合格発表!
「この天ぷらは、チョコレートとバニラ・アイスクリームの天ぷらです!」
俺は胸を張って、最後の天ぷらをトロルのゴンボスに差し出した。
子トロルたちはニヤリと笑って、棍棒を構えている。
「バカが……! リクトッ!」
フェリクスが嘲笑った。
「良い方向で評価されていたのに、最後の最後でボロを出したぜっ!」
そして続ざまに叫んだ。
「フリッター類のデザート揚げはリンゴなど果物類と決まっている! チョコやアイス? 甘すぎて食えたもんじゃないはずだ!」
しかし、トロルのゴンボスは真剣な表情でチョコとアイスの天ぷらを睨みつけている。
そして意を決しデザート天ぷらをつまみ、でかい口に放り込んだ。
「む……うむ?」
そしてしばらく目を閉じて咀嚼し、天を仰ぎ味わい……口を開いた。
「これは――不可解なくらい――美味い!」
俺とレイチェルは顔を見合わせた。
フェリクスといえば、顔面蒼白だ。
「チョコとアイスクリームが揚げた熱によってとろけておる! それがサクリとした衣と相まって……」
トロルは二個目に手を伸ばした。
「口の中で甘さがとろける! シンプルな塩味で飽きがきていたところに、このガツンとした甘さ……やられたわい!」
「そ、そうか! 塩味だけの天ぷらに、味わいの変化を加えたわけか!」
レイチェルが俺を見て声を上げると、俺は大きくうなずいた。
「そうだ――。料理のフルコースと同じ。最後は誰もが喜ぶチョコとアイスの『甘み』で締めたというわけさ!」
「むうううんんんっ!」
トロルはバーンと地面を両手で叩いた。
俺たちの料理の皿や竹カゴが吹っ飛んだ。
「この天ぷらという料理――揚げ物料理の完成形だ!」
そしてトロルは笑いつつ大声を発した。
「ガハハハハ! リクト、レイチェル組の勝ちだ! フェリクスとガーランドは負け!」
子トロルたちはニヤリと笑い棍棒を再び構え、フェリクスを見やった。
「ひいいいっ! 殺される!」
フェリクスとガーランドは大空洞の奥へ逃げ出した。
◇ ◇ ◇
――二時間後、試験は全員終了。
さ、さて……合格発表のはずだが?
「――さて、どうですか、ゴンボスさん。試験は終わったと聞いたので」
洞窟の奥から静かに歩いてきたのは――グレゴリー校長だ!
「うーむ……? 通用口が洞窟の奥にあるらしいな」
レイチェルが俺に耳打ちをした。
「校長! 今年の審査は楽しませていただきましたっ」
トロルはその巨体を座ったまま折り曲げ、校長にでかい頭を下げた。
あ、あれれ? 案外、礼儀正しいヤツだったんだな?
「面白いヤツが数名おり、まあまあ豊作といってよろしいかと」
「皆さん、このトロルのゴンボス氏は、魔物界から足を洗い、料理研究家となったトロルです」
グレゴリー校長は受験生たちに説明し始めた。
トロルは頭をかいて、グレゴリー校長を横目で見ている。
「彼は私の生徒でした。――体が大きいのでいつも外で授業を受け、かわいそうでしたが」
「へえ、若ぇときは、生意気ばかり言って申し訳ございませんでした」
トロルはペコペコとグレゴリー校長に頭を下げている。
さっきの子トロルたちといえば、真面目な顔で整列している!
な、何だ? こいつら、演技だったのかよ!
「では戻りましょう。合格発表です! 皆さん、指定された厨房の前に戻りなさい」
ドヨッ……。
受験生たちは顔を見合わせた。
グレゴリー校長は自分の魔導端末に話しかけた。
「では昇降機を上げて――」
地面が揺れ、巨大昇降機が俺たちを乗せて、厨房ごと上がりだした。
「おう、ガキども! 来年もまた来いよ~!」
トロルは下からとんでもないことを叫んでいる。
「う、うるせぇ、デカブツ!」
「二度と来るか、クソが!」
「お前とはもう会わねえよ!」
受験生の罵詈雑言が響く。
トロルはガッハッハと笑い、まるで効いていないようだった。
◇ ◇ ◇
「リクト――どうだった?」
巨大昇降機が上がりきり元の第二試験会場に戻ったとき、アイリーンがすぐに話しかけてきた。
「おう! バッチリだったぜ。そっちは?」
「勝ったわよ! 私の協力者は――どこにいるのかしら。体が小さい女の子だから……。ん? その人は?」
アイリーンはレイチェルをチラリと見た。
「ちょ、ちょっとお……! な、何て美しい女性なの?」
アイリーンは頬に両手を当てて、レイチェルを見て目を丸くしている。
「ああ、君」
レイチェルは咳払いしながら言った。
「私はレイチェルだ。リクトの友人か? 彼には世話になった。アイリーン、合格したらよろしく願おう」
「え、ええ! こんな素敵な人ならいつでもお友達に……!」
アイリーンは顔を赤らめてレイチェルとキャッキャと話し始めた。
女ってのは意味わからん――どういうコミュニケーション能力なんだ?
「さあ受験生ども! 合格発表だ!」
角刈りの男性教師、ボウハラ先生が入口から入ってきて大声をあげた。
生徒たちは緊張のせいか、大きくどよめく。
緊張しているのは俺もだった……。
「合格者――まず一人目!」
ボウハラ先生は金髪の黒服の少年を指差した。
「フェリクス・ダンクセン!」
なっ……何ぃいいいい!
お、俺とレイチェルに負けたフェリクスか?
フェリクスはさも当然というように、髪の毛を両手でなでつけている。
「く、くそっ、こ、これは……!」
レイチェルが悔しそうにつぶやいた。
「この学校でも高貴な出自の者が有利っ……!」
俺はグレゴリー校長が「悪魔」と呼ばれていたらしいということを――今、思い出していた。
そのグレゴリー校長は椅子に座り、鷹のような目で生徒たちをじっと見ていた――。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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