第18話 審査開始! 審査員は魔物――トロル!
俺たちの試験は洞窟内――大空洞で行われている。
巨大な自動昇降機の上に乗った約五十名の受験生と、約五十台の厨房周辺はあわただしくなった。
トロルと子トロルたちから審査に呼ばれる受験生が増えてきたからだ。
「ライラとメイファ組、グートとステイラス組の揚げ物料理の審査だが……」
トロルは地面にあぐらをかき、受験生四人の料理を太い指でつまみながら口を開いた。
「ライラとメイファ組の勝ちだ!」
女子二人組の受験生、ライラとメイファは顔を見合わせた。
「魚のフリッターに加えて、果物――リンゴやナシといったフルーツフリッターも添える工夫があった」
トロルの批評は終わらない。
「この衣のサクサク感は炭酸水を入れて混ぜたか? 良い工夫だぜ。食感、味の立体感でライラとメイファ組の勝ちとする!」
子トロルたち三匹はまた棍棒を構えたので、負けたグートとステイラスたち男子二人は、大空洞の奥に逃げ出した。
「おい、リクト。今のトロルの講評を聞いたか?」
レイチェルは真剣な顔で俺に耳打ちした。
「トロルの奴、驚くべき料理分析能力だ。……あれはただの魔物じゃない」
「ああ、とくに炭酸水を加えると揚げ物の食感が良くなるのは、よほど食を知っていないと無理だ」
「これはプレゼンテーションを真剣にやらないとマズいぞ」
……あのトロルのゴンボスという魔物……何者なんだ?
俺たちはエビ、マイタケ、アワビ、そして「隠し天ぷら」を揚げ終えた。
「さてさて、リクトとレイチェル。勝負といこうじゃないか? 僕らは対戦相手同士だろう」
フェリクスが後ろに背の高いガーランドを従えて、俺たちに言葉を放った。
「お、おいフェリクス……」
ガーランドが、手をプルプルと痙攣させながらつぶやいた。
「も、もっと揚げさせろ。だめだ、料理をしてないと手が震えてきちまう……」
この背の高いガーランドって野郎は料理中毒か?
ヤバいから近づかないでおこう……。
「よ、よし、盛り付け完了! これで勝負を賭ける!」
俺は三つの天ぷらを、紙を敷いた竹のザルの乗せた。
もう一つの「隠し天ぷら」は、シークレット。
三つの天ぷらとは別のフタのついた、竹カゴの中に入っている。
「リクトとレイチェル、フェリクスとガーランド!」
トロルのゴンボスの野太い声が、土臭い洞窟内に反響した。
「お前らの審査の時間だぞっ! 料理を俺様の前に持ってこい!」
◇ ◇ ◇
「お前らの試験は料理対決――審査員は俺様、ゴンボスだ!」
トロルはあぐらをかきつつ、洞窟の地面に置かれた俺たちの料理を見ながら声を上げた。
「これは本物の入学試験だぜ! 覚悟はいいな。まずはフェリクスとガーランドの料理だ」
ゴンボスは鶏の揚げパイを巨大な指でつまんだ。
鶏の揚げパイが小さく見える。
ちゃんと味わえるのか? このトロル……。
「……ふむ」
トロルはでかい口に揚げパイを放り込んで、味わいつつ話しだした。
「揚げられたパイはとても香ばしい。ほう、鼻にのぼってくる刺激的な芳香はナツメグ、コショウ、オレガノ、ミント……」
こ、このトロル……味を分析してやがる!
「肉自体もジューシーだ! ハーブ、香辛料を入れたミンチ肉になっていて食べやすい。脂身の甘味もいいぜ」
フェリクスとガーランドは顔を見合わせてニヤリと笑った。
「だが……俺の舌はごまかせねえぞ!」
トロルの顔が鬼のように豹変した!
「パイの食感が悪い! 厚みが均等でないからだ。しかも生地を冷やしてないので、パリパリとした食感に乏しい!」
「あっ……! うう……」
フェリクスの顔は真っ青だった。
図星だったらしい。
「といってもこれは入学試験だ。緊張もあるだろう。ま、味としては及第点かな」
こ、このトロル、まともなことを言っているぞ!
フェリクスの顔は途端に安堵の表情に変化した。
「で、では合格……」
「まあ待て。これは料理対決だ。リクト、レイチェル組の料理を味わってみるとしよう。ふむ……この料理は?」
トロルはのぞきこむように俺たちの天ぷらを見やった。
「『天ぷら』だと? 聞いたことねぇなあ。どうせフリッターに似た料理だろ? 若いんだからもっとチャレンジしろよ、まったく」
「塩をつけてご賞味ください!」
俺は横の小皿にある、塩を指差して叫んだ。
トロルは「わかったわかった」と言いつつ、面倒くさそうにエビの天ぷらを太い指でつまんだ。
「ん――なんだ?」
トロルは目をカッと見開きエビの天ぷらを味わい、もう一つエビの天ぷらを口に放り込んだ。
「こ、この味わいは……!」
トロルのゴンボスは深く味わっている。
「エビのプツリとした食感! 衣が丁度良い薄さで、サクリとしている! ――美味い!」
トロルはあわてたように、マイタケの天ぷらも口の中に放り込んだ。
子トロルたちやフェリクスとガーランドも驚いたように、顔を見合わせている。
「おう……土と木――森の匂いが口の中に広がるぞ! こ、こんなに強い匂いのキノコがランゼルフ地方にあるのか?」
トロルは今度はアワビの天ぷらをつまんだ。
「と、とんでもない弾力と甘みだ! 磯の香りが口の中に広がり、肉厚な貝が歯を押し返してくるぜ!」
トロルは俺を睨みつけた。
「き、貴様ぁ……! この俺が知らぬ物を食わせおって……。こ、この竹のカゴは何だ?」
俺はニヤリと笑った。
レイチェルはすぐに竹のカゴのフタを開けてくれた。
そして――俺は胸を張った。
「この天ぷらは、チョコレートとバニラ・アイスクリームの天ぷらです!」
「な、何だとおおおっ?」
トロルと子トロル、フェリクスたちは同時に驚きの声を発した。
さあ味わってくれ――最高のデザート天ぷらだぜ!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
もし少しでも「面白かったよ!」「この先が気になるな~」と感じていただけたら、☆や「ブックマークに追加」で応援していただけると、とても嬉しいです。それが作者の元気の源になります(笑)
次回もぜひお楽しみに♪




