第13話 受験! グレゴリー料理アカデミー①
ある日の朝――。
俺――リクト・ロジェは「グレゴリー料理アカデミー」で行われる「入学試験会場」に向かっていた。
俺たちを乗せた魔導バスは、アカデミーのある「グレゴリー島」に向かって走っている。
天気は晴れ――街路樹の桜並木が満開で花びらが舞い散っている。
「ねえリクト! 見て、すごいわ!」
隣に座っていたアイリーンが、窓を見て歓声をあげた。
バスは坂を下っていくが、その眼下にはすさまじく広い海岸沿いの人工島が広がっていた。
周囲の海が太陽を反射し、ダイヤモンドのように輝いている。
「あれが『グレゴリー料理アカデミー』よ!」
島の中央部には巨大な校舎――「グレゴリー料理アカデミー」がある。
この島は学園島で、「グレゴリー料理アカデミー」を中心に人々が生活をしているといっても過言ではない。
「アイリーン……何でお前がバスに乗ってるんだよ!」
俺は呆れつつ叫んだ。
俺の右隣にはなぜか、アイリーンが座っている。
バスの乗客は俺たち二人だけだ。
「あのなぁ……」
あろうことか、彼女は父親に頼んで「ランゼルフ料理アカデミー」を退学してしまったのだ。
そして「グレゴリー料理アカデミー」を俺と一緒に受験するという。
「お前、バカだろ!」
俺は女子に対して普段、バカとは言わないが、さすがに彼女の行動には驚かされた。
アイリーンはぷう、と頬を膨らませた。
「バカとは何よ! あんたよりは頭良いわよ!」
「わ、悪かった。――だが、今なら引き返せるぞ。ランゼルフ料理アカデミーにいて卒業すれば、良いレストランに就職できる」
俺はアイリーンを諭した。
「お前の料理の腕前、成績なら、ホテルの料理長だって夢じゃないぜ? それを……」
「ランゼルフ料理アカデミーなんか! 料理勝負に不正がある、あんな学校、誰がずっといるもんですか!」
アイリーンは憮然としながら声を荒げた。
「べ、別にあんたを追って『グレ校』に行くわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね! ……ん?」
プシュー……。
空気が抜けるような音がしてバスが止まった。
「も、申し訳ない」
バスの運転手が立って、俺たち二人に頭を下げた。
「魔導エネルギーがバスから漏れ出ているようです。たまにあるんですよ、故障です」
「えっ? つまりバスを降りろって? ちょっとぉ! 受験があるんですけど!」
アイリーンは目を丸くして、あわてて怒鳴った。
俺はため息をついて髪の毛をかきあげた。
「た、大変申し訳ありません!」
「私、前の学校やめてきてるんだからさぁ!」
アイリーンはご立腹だ――まあ気持ちは分からんでもないが。
まったく前途多難なことだぜ。
「これから修理をしなければなりません。――お二人はグレゴリー料理アカデミーの受験生でしょう?」
運転手が帽子を取って胸の前にあてがいながら、申し訳なさそうにした。
「バスを降り、坂道から階段を下ると、地下民たちの住居があります」
「地下民……?」
「その住居街から地下鉄道が出ているのです。それに乗れば受験に間に合います」
確か、俺と同じ出自の奴隷民が地下に住んでいると聞いたことがあるが。
まさかグレゴリー島周辺の地下に暮らしているとはな。
「ただ、お気をつけください。地下民には『闇の晩餐』の会員たちもおります。彼らとは絶対に接触しないように」
「闇の……晩餐?」
なんだそりゃ?
俺が運転手に聞こうとしたとき、アイリーンはすでにバスを降りてしまっていた。
「早くしないと受験に間に合わない! 行きましょ!」
俺は仕方なくバスを降りた。
◇ ◇ ◇
バスを降りると、そこは高台にある坂になっており、見晴らしの良い場所だ。
俺たちは草むらにある階段を下っていった。
眼下のグレゴリー島は迫ってくるように巨大だった。
「すごい景色だわ……」
アイリーンがつぶやいた。
俺たちはあそこで新生活を始める――受験に受かれば。
「おい、ここだ」
階段をかなり下りたが、やっと地下道の入り口を見つけた。
横の錆びた看板には、「地下鉄道乗り場 グレゴリー島直行」と書いてある。
階段が下に続いている。
「早く下りよう」
「もう~! 何でこんなことになるのよ!」
今は朝の9時30分。
早くしないと11時の入学試験に間に合わない!
◇ ◇ ◇
地下道は薄暗い商店街となっており、湿った空気が俺たちを包んだ。
麺類屋からはもうもうとした湯気が立ち上り、定食屋の前では肉を焼く匂いが漂っている。
パン屋には素朴な角パンが並び、雑貨屋、鍛冶屋など、薄汚い店がひしめきあっていた。
「あの人たちが、地下民?」
アイリーンが怖々つぶやいた。
麺類屋の外では麺をすすっている、身なりの汚い男たちがたくさんいた。
「おい! ここで何をしている!」
俺とアイリーンは飛び上がった。
黒い服に身を包んだ筋肉質の大男が、地下の建物から出てきた。
建物の看板には「闇の晩餐」と書かれている……。
「何だぁ? てめぇら。ああそうか、グレゴリー料理アカデミーの受験生か。――バスでも故障して、地下鉄道に乗ろうってわけだな」
大男はギロリと俺とアイリーンを睨みつけながら言った。
「今回も、あんな学校に入るバカが増えるのか!」
「何? どういうことだ? あんな学校?」
俺はアイリーンを大男から遠ざけて言った。
「『グレ校』の校長――イルーネ・グレゴリー校長は……あの婆さんはな」
大男はニヤリと笑って言った。
「料理界の悪魔だ! それでも入るのか? あんな料理学校によ!」
あ、悪魔だと?
あの上品そうな婆さん……いや、グレゴリー夫人が……?
どういうことだ?
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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