第11話 決着! そして俺は料理人への道へ!
『では、三人の審査員様! 勝ったと思われる料理人の札を上げてください!』
放送部員が、魔導拡声器で声を響かせた。
ん? そ、そうか!
ラーパスが妙に自信があったのは、審査員にピエールというボルダー教頭寄りの人物を依頼したからだ!
「ガハハハ! リクト、お前に勝ち目はない!」
ラーパスは笑いながら俺に告げた。
「ピエール・ダンクセンは俺のパパから多額の金を受け取っているからなあ!」
な、何だと、畜生!
俺はまたしてもとんでもなく不利な状況に気づき、悔しくて握り拳を震わせた。
『審査員の皆様、どうぞ、この勝負に決着を!』
ボルダー教頭は半ば作り笑いをしながら当然のように、「ラーパス」と書かれた札を掲げた。
一方、グレゴリー夫人は俺――リクト・ロジェの札を掲げてくれた!
「1対1! 今のところ同点よ!」
アイリーンが明るい声を上げた。
「の、残るはピエールさんだけだけど……」
ピエール・ダンクセンは真っ青な顔で二つの札を選び始めた。
「ピエール君。ここは一つ、息子をよろしく頼むよ。王族の総料理長への就任選挙――私は票を一票持っているからね」
ボルダー教頭は毒々しい笑顔を作り、ピエールの肩をぽんと叩いた。
「そ、総料理長……私が……王族の……」
ピエールといえば玉のような冷や汗をかき、札を選ぶ手が震えている。
ボルダー教頭が悪魔のような顔で煽る。
「さあ、早く! 札を上げたまえ、ピエール君!」
「わ、わ、私の誇りにかけて、料理人の誇りにかけて! う、ぐっ……!」
ピエールはラーパスの札を掲げようとした……が、それを止めた!
そして彼の掲げた札は――!
「――透明なコンソメスープのごとく、美しく決着させていただこう!」
リクト・ロジェ! 俺の札だった……!
会場内に観客の小声がかすかに響く。
「え? ど、どっちが勝ったんだ?」
「まさか、そんな――。ウソだろ?」
「えーっと……?」
『えー……に、2対1! この料理勝負、リクト・ロジェ選手の勝利でございます!』
放送部員の声がこだまする。
会場内はしーんと静まり返ったが、すぐに……!
「すげええええ!」
「あの掃除人、マジで勝っちまったのか?」
「とんでもない不利からの勝利だあああああ!」
ドオオオオッ
観客の声が一斉に俺への祝福の声に変わった。
割れんばかりの大歓声だ!
「わああ! すごい、リクト君、すごーい!」
アイリーンが俺に抱きついた……が、すぐに顔を真っ赤にして顔をそむけた。
「あっ……べ、別に私は嬉しくなんかないわよ! 私は協力しただけ、勘違いしないでよね!」
「バカ……な……」
ラーパスは口をあんぐり開け、膝から落ちた。
ボルダー教頭といえば震える手でコップの水を飲もうとしたが、それを床に叩きつけた。
「こ、こんなバカなことがあるか! ピエール! このザリガニ野郎!」
ボルダー教頭が鬼の形相でピエールの胸ぐらを掴まえた。
ピエールは伏目がちだったが、声を尖らせた。
「ボ、ボルダーさん、確かに私はあんたに多額の金をもらっている」
「じゃあ、なんでだ! 貴様っ! お前を茹でてダシにしてやろうか!」
「あ、あのスシという料理は魔法だ、料理革命だ! あの料理を否定できる料理人は、この世に存在しない!」
「く、くっそ~っ! リクト!」
ボルダー教頭はまるで猛牛のように俺に向かってきた。
「お前のようなカビの生えたパン野郎は、さっさと商品棚から取り除くのが鉄則! リクト、貴様は追放だ!」
「つ、追放って、どういうことだ?」
「私の家からも、ランゼルフ料理アカデミーからも、出ていけ、という意味だあっ! 生徒が食中毒を起こさないうちに!」
「やめておきなさい、ボルダー君」
グローバッハ校長が巨体を揺らしながら後ろに立っていた。
「この料理勝負には報道機関が少なからず来ている。リクトを辞めさせたら、我が校は圧力でリクトを辞めさせたと噂になるぞ」
「だ、黙れっ! 校長! あんたが帰ってきてから、勝負がおかしなことになりだした!」
ボルダー教頭はヒステリックに叫ぶ。
すると……!
「リクト君、あなたはこの学校にいてはならない」
今度は、グレゴリー夫人が審査員席から静かに歩いてやってきた。
ど、どういうことだ?
「リクト君は私――イルーネ・グレゴリーが校長を務める学校――『グレゴリー料理アカデミー』に入学しなさい」
「ええっ?」
俺とアイリーンは驚いてグレゴリー夫人を見つめた。
『グレゴリー料理アカデミー』は、ランゼルフ料理アカデミーより歴史があり、もっと大きい超名門校だ……それくらいは俺でも知っている。
そして――。
グレゴリー夫人が寿司について知っていたこと、グローバッハ校長がジョウイチについて知っていた理由がまだ分かっていない。
一方――。
「このバカタレがああっ! お前は高価なトリュフくらいの価値があると思っていた!」
ボルダー教頭は息子の頭を殴りつけていた。
「今のお前はベニテングダケ以下だああっ!」
ボルダー教頭の声が、会場内にむなしく響いていた――。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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