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異世界料理アカデミー ~掃除人の俺、謎スキル「異次元デパ地下」で料理革命~  作者: 武野あんず


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第10話 真っ赤な寿司

俺は掃除人、リクト・ロジェ。


ボルダー教頭の息子、ラーパスと料理で真剣勝負を行なっている!


――俺は素早く三人前の寿司を、木の板――「寿司下駄(げた)」に乗せて提出した。


「これがエビ、(あぶ)りマグロ、そして俺のオリジナルの寿司――計六(かん)だ!」


寿司下駄には俺の寿司がのせてあり、その横に小さい木箱が置いてある。


そして小さい皿には醤油(しょうゆ)が垂らしてある――。


「こ、これは……何と奇妙な食い物だ……」


ピエールが寿司を見て顔をしかめた。


「この黒いソースをつけて食えと?」

「それは醤油です! どうぞ、手づかみで召し上がってください!」


俺は胸を張って言った。


「よ、よかろう! ランゼルフ王国副料理長の名にかけて、この下劣(げれつ)な料理を断罪してやる!」


ピエールはエビの寿司を醤油につけて、手づかみで口に入れた。


グレゴリー夫人も同時に食べた。


ボルダー教頭は黙って二人を見ている。


「……お、おお……」


ピエールの表情の(けわ)しさがとれ、彼は驚きつつ唸った。


「何なんだこれは……。この酸味、旨味、歯応えの三重奏は……」

「エビの歯応えと甘み、炊いたお米の酸味、ショウユという黒いソースの塩味(えんみ)が相まって……」


グレゴリー夫人はも一個のエビ寿司を、もうたいらげてしまった。


「し、信じられない美味しさだわ!」

「た、確かに……これは美味い! まるで海の恵みが口の中に染みわたっていくようだ……」


ピエールがそう言ったとき、俺とアイリーンは顔を見合わせた。


観客がどよめいている。


「お、おいおい……! あのピエールが()めてるぞ!」

「あいつ、リクトの敵じゃなかったのかよ!」

「お、俺もスシってのを食べてみてぇな」


すると!


「グウオオオオオオ!」


会場全体に獣のような咆哮(ほうこう)が響き渡った。


(おり)の中にいる校長のペット、ドラゴンが目を覚ましたのだ。


俺が予備に作っておいたエビの寿司を二貫与えると……。


「グヒイグヒイ! ……ウマグヒイ!」


唸りつつ、吸い込むように食べてしまった。


するとドラゴンは満足そうにしてまた目を閉じて、眠ってしまった。


ま、満足してもらえたようだな。


「うっ……ぐっ……! こんなものっ……」


ボルダー教頭もエビ寿司を口に放り込んだ。


そしてブルブルと手を震わせ、目を充血させ静かに言葉を放った……。


「う、美味い……!」


そして(あぶ)りマグロの中トロ寿司に手をつけた。


「お、おお……このとろける味わい。これは魚の脂分(あぶらぶん)か? な、なぜだ? なぜこんな料理が私を魅了するのだ……!」

「パ、パパ! バカ言ってんじゃねえよ! リクトの料理が、美味いわけねえだろうが!」


ラーパスはロブソンの尻をガスガスと蹴りつけている。


しかしボルダー教頭は一心不乱に、次の寿司を口に運んでいる。


「おいおいおいおいおい、パパ! どうなってんだぁ!」


ラーパスが食材の長ネギを叩き折った。


グレゴリー夫人も炙りマグロの寿司を味わって、感想を放った。


「甘み、塩味、酸味、歯応え……すべての味わいがこの小さな食物の中に完璧におさめられているわ!」

「だ、だが待て! とんでもなく美味いが量は多少、少ないな。しかし、こっちの箱は一体……?」


ピエールが我に返ったように口をぬぐった。


俺の寿司下駄の横には、フタのある木箱が置いてある。


押し寿司という料理の木箱らしいが、今回は「とっておき料理」を隠すために使わせてもらったぜ。


「その木箱のフタを開けて、中のものを食べてください!」


俺がそう叫ぶと、審査員の三人はフタを上げた――。


全員、ギョッとした顔をした。


「ま、真っ赤だ!」


ピエールが悲鳴に似た声を上げる。


中には真っ赤な四角い直方体の寿司が、二貫入っている。


「いや待て! この匂いは――ランゼルフ王国の国民食のアレだ!」


俺は木箱の中に、トマトの汁で染め上げられたシャリの寿司を入れておいたのだ。


市場(いちば)でトマトを買っておいて良かったぜ。


シャリは鮮やかな赤色で、表面の塩の結晶がシャンデリアの光を反射していた。


「むうぅっ!」


なんと、一番早くトマト寿司に手を出したのが、ボルダー教頭だった。


「う、うむむ! 先ほどの脂っぽい魚のスシの後味が、トマトの(さわ)やかな酸味で洗い清められていく!」

「しかもこの赤いスシの中に、何か歯ざわりのよいものが入っているわ!」


グレゴリー夫人が頬張(ほおば)りながらうなずいた。


「塩漬けのキャベツの(しん)よ! パリッとした歯ごたえが気持ち良いわ! これは米のサラダね!」

「そうか! あ、あの変色したキャベツの芯を使ったのね!」


アイリーンが俺を見て、ホッとしたような表情をした。


そう――俺はキャベツの芯を細長く切り、トマト寿司の中に仕込んでおいたのだ!


「そうだ。キャベツの表面の変色は、ポリフェノールが酸化しただけだ! だから中身の芯は、問題なく食べられる」


俺は前世の記憶を頼りに説明した。


『では三人の審査員様! 勝ったと思われる料理人の札を上げてください!』


放送部員が、魔導(まどう)拡声器で声を上げた。


ついに――勝負が決まる!

【作者・武野あんず からのお知らせ】

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

もし少しでも「面白かったよ!」「この先が気になるな~」と感じていただけたら、☆や「ブックマークに追加」で応援していただけると、とても嬉しいです。それが作者の元気の源になります(笑)

次回もぜひお楽しみに♪

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