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俺が彼女を取られたら、それを手ぐすね引いて待っていた奴らがいた件  作者: 無味あり


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7

信也くんと今日行く水族館。


そこはあの人との唯一のデートで訪れた場所だった。


あの時、私は()()()()水族館ではしゃいで、それをあの人はつまらなそうに…。



するりと抜けたサイズの合っていない結婚指輪。それは予想外にもあっさり外された。


「えっ…冬ちゃん、なにを…。」


秋穂が突然のことに目を見開くと、冬美はどこか複雑な笑顔で答えた。


「…母さん、今日くらい()あの人のことは忘れて楽しんでくるといい。」


「えっ…でも…。」


「でもじゃない。せっかくの信也くんとのデートなんだから…。そうだな…新しい恋に臨む気持ちでなんてどうだ?」


「あ、新しい恋っ!?」


…冬ちゃんはなんてことを言うのだろう…だって私には…。


秋穂がチラリと冬美だけが写っていない写真に家族写真に視線を送ろうとすると、それを隠すように冬美がその前へと身体を移した。


「その年齢でそんな格好しているんだから、別に恥ずかしいことないだろ?」


「…いや、だって…これは冬ちゃんが…。」


「さあ、そろそろ時間だぞ!行った行った!!」


「ちょっと待って、冬ちゃん?…って、あれ?」


…あれ?…確か私は今なにかしようとして…。


秋穂は本能的に家族写真で()()()の姿を確認しようとしていた。


しかし…


「?」


…それは冬美の不意な言葉、行動に遮られ、忘れてしまった。


「……。」


早くしろと腕を組んで仁王立ちする冬美の目は言っていたので、秋穂はため息を一つ。


「…はぁ…わかったわよ…。もう…冬ちゃんったら…。」


そう秋穂が呆れつつ、車のキーを手に取ろうとしたのだが、今度はそれを横から掻っ攫われてしまう。


そして、後ろからゴゴゴゴと効果音でもしてきそうな笑顔で聞いてきた。


「…これでなにをするつもりだ…母さん。」


「えっ…だって水族館でしょ…それなら車で…。」


まあ、秋穂の行動は車持ちの大人なら普通だろう。駐車場がないにしても近くのパーキングにでも停めて…となる。


しかし、冬美はそれを許さない。


「そんなのダメに決まってるだろう?」


「えっ…だって…。」


と秋穂が続けると、冬美は眼尻を引き上げ、怒鳴りつけた。


「だってもなにもない!!信也くんを母さんと密室で2人っきりになんてさせられるものかっ!!電車で行け!電車で!!」


「えっ…ええ〜〜〜っ!?」



と、秋穂は駅に向かうことになった。




水中を思わせる一面の大きな水槽。


薄く限られた光はそこに集中され、大きなその中を自由に泳ぎ回る魚たちの鱗が光を反射し、彼らはまるで美しくカットされた宝石でも纏ったかのように輝いている。


一面の蒼が引き立てる光の乱反射による魚たちの様々な色。


それを直観的に見た信也は思わず「わぁ〜!」と歓声を上げそうなほどの感動を感じていた。


いや、本当のところ、自分では気がついていないだけで、上げていたのかもしれない。


「……。」にこっ。


なんとなく秋穂の視線が優しげに感じる。


「…なにか?」と、信也が思わず尋ねると、秋穂はクスリと笑い口元を押さえた。


「ふふっ…ううん、なんでもないわ。」


「……。」


なんとなく照れくさい。


ホントいつもの自分らしくない。信也が浮ついた気持ちを落ち着けようと前髪の中に手を突っ込み、額に手を当てていると、笑いが収まったらしい秋穂が聞いてくる。


「もしかして信也くんはお魚さんが好きなの?」


「えっ…なんで?」


「ふふっ、だってあんなに楽しそうに見ているんだもの。それは誰にだってわかるわよ。」


普通に考えて、表情が窺えない信也の感情を読み取るのは至難の業だろうが、偶々かもしれないけど、どうやら秋穂にはわかってしまうらしい。


「…違うの?」


「いや…どうだろうな…。うん…たぶん嫌い…ではないだろうけど…。」


信也のなんとも煮え切らない返事に秋穂は首を傾げると、続けて聞いてきて…。


「?ならなんで…。」


「なんでってそれは…。」


…そう答えを信也が口にしようとすると、水槽の前に陣取っていた子供たちが「わぁっ!?」と大きな声を上げて転んでしまい、それを見た秋穂が慌てて駆け寄ることで、その会話は終わってしまう。


「大丈夫、僕?」


「うん!大丈夫、ちょっと大きなお魚が目の前に来てびっくりしただけだから。」


「ふふっ、あら、そうなの?なら、今度からは気をつけてね。」


「うん!お姉ちゃんありがとう!」


走り去っていく子供に困惑しつつ手を振る秋穂。


「えっ?う、うん…お姉ちゃん?」


おそらく謙虚な秋穂はオバサンとでも言われると思っていたのだろう。


信也は困惑する秋穂を見て、思わず吹き出した。


「プッ。」


「あれ?信也くん、なに笑ってるの?」


「いや、別に…っ…ははっ。」


「ねぇ、ねぇってば!」


戻ってきた秋穂がその理由をしつこく聞いていたが、信也はなにも答えず、魚を見ることを促す。さっき笑われた仕返しか、それともなんとなくいつもより幼気に感じる秋穂のことを見ていたいからか?


「ほら秋穂さん、こっちに大きな魚が…。あれってなんて魚なんだろうな…。」


「えっ、お魚さん?う〜ん…たぶん私が知らないお魚さん…かな?捌いたことなさそう…。」


「クスッ…秋穂さん…そこでその返しって…。…あっ…ダメだ…また吹き出しそう…。」


「なによ…信也くんったら…ふんっ!」



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