3章_11話
あれから領での日々はあっという間に過ぎ去り、厳しい夏の暑さも去っていった。
そして学園が始まり、我々も学園へと戻った。
短いようで長い休暇が終わり、勉学へ励む毎日がもどってきた。
久々に寮の部屋へと戻ると、不思議な気分に襲われた。
なんだか、懐かしいが新鮮な気分だ。
いい部屋だ。
広さもあるし、日当たりもいい。
快適な空間がそこにはあるのだが…。
「おい、なんでいる」
なぜか部屋にいるレイルに苦情を伝えた。
なぜ彼がいるのか。
鍵はどこから手に入れたのか。
なぜ紅茶を入れて読書を楽しんでいるのか。
なぜ、えっ!?みたいな顔をしているのか。
「だって、僕たちの仲じゃないか」
「どんな仲だ」
「あんなこともこんなことも」
「してない」
レイルはまたまた、えっ!?という顔を見せた。
腹たつわー。
「まぁ冗談はこのくらいにして、夏季休暇明けに会いに来ただけだよ。僕はヘラン領に招待されなかったからね」
「なんだよ、来たいならくればよかっただろ?」
「アークは行ったよね」
「来たよ」
「エリザも行ったでしょう?」
「ん、来たよ」
「じゃあなんで僕は呼んでくれないのさ」
腹たつわー。
あの目をうるうるさせてる顔が腹たつわー。
「いいから何しにきたんだよ」
「ああ、別に用はないよ」
あ、本当に用がないんだ。
びっくりしたー!
用がないのに、部屋の主より先にいるレイルか。
びっくりするわー!
「用がないのに忍び込んだの?」
「そうだよ」
うわ、怖っ!
この人、怖っ!
黙っているとレイルがこちらをじっと見つめる。
えっ何?みたいな顔してるけど、こっちが何?って気分だ。
「あの、用事がないなら帰って」
「えっ!?」
「えっじゃないよ。なんでいたがるの」
「だって、だって」
「可愛くないから帰って」
帰らないので押し問答になった。
押し問答中に何度かお尻を触られたが、気のせいだろう。
自意識過剰というやつだな。
男が男の尻を触るなどありえない。
そんなことをしていると、ヴァインも部屋に入ってきた。
もはやノックもない。
なんで当たり前のように入るんだろうか。
「ヴァインくん!よかった、助けてよ。クルリくんが無理矢理手を出してくるんだ」
「手を出してるのはお前だ。いいから尻から手をどけろ」
ヴァインは特にこちらに加勢することはなく、「ほどほどにな」といって、椅子に腰掛けた。
ほどほどって何!?
何をほどほどにやるのかな!?
教えて!偉い人!
ヴァインは席に着くと、側の俺たちのいざこざなんて気にもせず、落ち着いている。
何かを待っているかのように。
まぁクロッシを待っていることくらい明白ではあるが。
「久々にクロッシに会えるな。そろそろ来るんじゃないのか?」
「ああ、そうだな」
素っ気ない返事だったが、ヴァインは心の中で楽しみにしているに違いない。
その証拠に、さっきから足がそわそわしているのだ。
もう来てあげて!
クロッシのこと好きすぎるでしょ!
「さ、賑やかになってきたし、僕もここにいさせてもらうよ」
どさくさに紛れて、レイルもヴァインの隣に腰掛け、紅茶の続きを楽しみ出した。
「ヴァインくんも休みはヘラン領にいたんでしょ?」
「ああ、居たぞ」
「いいなー。僕は誘われなかったんだよ」
「そうなのか」
「そうなんだよ。好きな相手を誘いづらいのはわかるけど、酷いよねー」
「いや、好きじゃないから」
いや、まじで。
その、えっ!?みたいな顔やめて。
腹たつから。
クロッシを待つ間、俺も紅茶を淹れた。
領から持ってきた一番いいやつだ。
香りが強く、味も華やかだ。
「ヴァインも飲む?」
「貰おうか」
お茶パックを2袋取り出し、お湯を沸かす準備をする。
「僕の分は!?」
「飲んでるじゃん」
「いいなーヴァインくんは領に誘ってもらって、しかも紅茶ももらえて」
「わかったよ、あげるからヴァインにまで当たらないでくれ」
しょうがないのでレイルの分も準備し、3人で紅茶を楽しんだ。
そわそわするヴァイン。
なんかやたら近くに寄ってくるレイル。
俺の部屋にプライベートという空間が存在する日は来るのだろうか。
なんで自分の部屋で心落ち着かないのだろうか。
それらの鬱憤を紅茶と共に飲み込んだ。
それにしてもクロッシがまだ来ないのか。
真っ先に来て、ヴァインとトレーニングに行くと思っていたんだが。
もしかしてまだ学園に着いていないのかもしれない。
でもヴァインはそんなこと考えもせず、今か今かと待っている様子だ。
「来ないな」
ふとそんな言葉が出た。
「そうだな」
つられてヴァインも答えた。
そういえばクロッシは何か用事があるとかでヘラン領にこなかったけ。
どんな夏季休暇を過ごしたのだろうか。
「そのー、クロッシは来ないよ?」
レイルからの言葉に俺とヴァインが顔を見合わせた。
なんだって!?
こない?
なんでこの人そんなことまで知ってるの?
「彼女もいろいろ大変な立場だしね」
「彼女?」
いろいろと何を言っているのだろうか、この男は。




