文化祭の始まり
新学期に入り、準備も滞りなく行われて迎えた9月4日の文化祭。
今日は学内のみの文化祭で、一般公開は明日である。
午前中はステージ発表の鑑賞会。軽音楽部や応援団部等の部活パフォーマンス、三年生組が劇やダンスを披露していく。
観た感想としては去年同様、"凄いな"という感想しか出なかった。語彙力がない自覚はある。
『ステージ発表
凄かったね!』
でも、教室に戻る途中、俺と似たり寄ったりな感想を言ってくる加茂さんのおかげで、謎の安心感を持てたのだった。
教室に戻れば、すぐに文化祭の直前準備が始まった。
お化け役の人が衣装に着替えて、例の美術部員に特殊メイクをやってもらったり、当番の時間の確認をしたり等、人によってはやることは多い。
「昼飯どこで食う?」
「石村の幼馴染……神薙さんだっけ? そこのクラスは? 確か喫茶店だったろ」
「今日はパス。鈴香の店番明日なんだよ」
「別に二回行ってもよくね?」
「……確かに!」
クラスTシャツに着替えてから、秀人と山田と、これからのことを話していた。
俺の当番は明日の一番最後で、秀人や加茂さんと同じ時間に入っている。
だから今日は一日フリーで、秀人と山田の三人で回る予定なのである。
「じゃあ、まずはそこ行くってことで」
「なら、始まったらすぐ行かないとな。喫茶店なら混むだろうし」
「だな」
最初に行く場所が決まった後も、適当に駄弁りながら時間を潰す。
そうして12時になり、ピンポンパンポンと、聞き慣れた放送開始の音が鳴った。
『あー! あー! マイクテストォォォォ!!』
――思わぬ不意打ちに、文化祭前に鼓膜が死にかけた。
その男子生徒の声はまるで応援団だが、ステージ発表では聞き覚えがない声だった。
……うん、誰だよ。限度というものを知らないのか? 馬鹿なのか? 勢いからして馬鹿な気がする。
『先輩、放送なんですから声量考えてください』
その後、落ち着いた声で大声を出したを注意する女子生徒の声が聞こえる。どうやら、こちらは常識人のようだ。
『大変失礼致しました。文化祭実行委員、副委員長、白雪林檎です。文化祭開催の合図を務めさせて頂きます』
『文化祭実行委員長、天海遥です!』
常識人の方は副委員長で、無駄に五月蝿い声の方は委員長だったらしい。
……声量的に、体育祭の委員長やるべきだっただろと思わなくもない。多分、俺以外にもそう思ってる人は居るのではないだろうか。
大声に微妙に慣れてきたところで、副委員長が話し始める。
『まず、文化祭を始める前に注意事項をお知らせします』
『廊下は押さない駆けない喋らない!』
俺含めクラス一同、文化祭実行委員長の言葉のせいで、コントのようにずっこけかけた。
『先輩、それは避難訓練の標語です。それと声量調節できないなら黙っていてください。私がやりますから』
『頼んだ!』
副委員長から戦力外通告を受けた委員長の声はそれが最後だったが、最後まで元気だった。
『生徒の皆さん、先生方、鼓膜はご無事ですか。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。押したり駆けたりしてはいけませんが、喋って大丈夫です』
副委員長はその後、少し間を空けてから言う。
『これから文化祭を開催します。注意事項は、こちらからは一つだけ。節度を守ることです。それでは、文化祭を目一杯盛り上げ、楽しみましょう』
文化祭が始まり、当番の人以外は廊下に出る。
廊下に出れば、既に他クラスも動き始めていて、廊下はそこそこ混雑していた。
「おー、混んでる混んでる」
「俺達も行くか」
「何階だっけ」
「えーっと、光太、何階だっけ」
「二階。お前は把握してろよ……」
神薙さんのクラスの出し物をしている場所に向かうために、俺達も動き始めようとして――後ろから硬い何かで小突かれる。
振り返らずとも誰かは分かったが、一応振り返る。
「加茂さん?」
「…………(えへへ)」
予想通り、俺を小突いたのは加茂さんだった。仮面を頭に付けてホワイトボードを手に持つ加茂さんは、今から当番らしい。
彼女は自ら希望して、今日と明日の二回仕事に入っている。明日はお化け役と聞いていたから、今日は裏方か受付のどちらかだろう。
「何?」
俺を呼び止めた理由を訊ねる。そうして目が合い――。
「…………(さっ)」
――何故か、逸らされてしまった。
「…………(あれ?)」
「……加茂さん?」
俺を呼び止めた理由が分からず、再び訊ねようとして気づく。加茂さん自身も驚いたような表情をしていることに。
いつもと様子がおかしい。俺はもう一度彼女に呼びかけてみることにした。
「加茂さ「加茂さんっ、人来てる! 受付お願い!」……呼ばれたぞ」
「…………(こくっ)」
加茂さんは呼んだ人の方を振り向き、頷く。
そして、お化け屋敷の受付に戻る前に、ボードにペンを走らせてこちらに向けた。
『放課後に』
「分かった」
「…………(にこっ)」
加茂さんははにかみ、仮面を顔に付けて受付に小走りで向かっていった。
「加茂さん、何か言いかけてたな」
「赤宮、いいの?」
横で俺と加茂さんの会話を見ていた秀人と山田は口々に言う。そんな二人に、俺は言った。
「放課後にって言ってたし、緊急の用件じゃないみたいだから平気だろ」
急ぎの用ではないから、加茂さんは後回しにしたのだと思う。彼女は目が合った時に謎の動揺を見せたものの、何か急いでいる様子には見られなかった。
「確かに」
「それもそっか」
二人も俺の説明に納得したようだ。
「んじゃ、気ぃ取り直して俺達も行こうぜ」
「ああ」「だな」
歩き出す秀人の後に続いて、俺と山田も歩き出す。
――文化祭初日が始まった。





