04-12
なにやらすごい実験を公開できるところまでこぎつけたとかで、デビごっこさん with エルフシスターズの主催する実験見学会に参加することとなった。大体のクルーが本体か複製身体の一つは参加させているあたりに注目度の高さがうかがえる。
今回の実験用に用意したコンテナが金剛城≫の外に係留されており、それを窓から直接観察できる大部屋にての開催だ。当然コンテナの中は窓から見ても分からないので、ホロウィンドウでコンテナ内の中継映像を眺めることになっている。
大きく展開しているホロウィンドウもあるが、なんとなく数人毎でまとまって手元のホロウィンドウから実験を見学する雰囲気になっている。俺の周囲に居るのはデビごっこさん、ふわふわヘアーさん、苦労人ぽい三女エルフさん。
デビごっこさんは自身の本体と複製身体いずれかで大体のグループと会話できる位置取りをしているらしいが、主催側の二人がここに居るのはバランス的によろしいのだろうか。
「研究主導者の特権である。……大したことないじゃんってなったら真っ先にチクチク言われるし、これくらいはね」
自信満々かと思いきや、自身があるからこそ不安にもなるのかちょっと笑顔が引きつっているデビごっこさん。
「抽選に勝ちました」
苦労人ぽい三女エルフさんはエルフシスターズ四人でサイコロでも振ったのかな。
「今回のは内緒の一言でずーっと堂々と誤魔化されてたやつのお披露目らしいから、みんなとーっても期待してるのよ?」
ふわふわヘアーさんがちょっと意地悪な感じの笑みをデビごっこさんに向けている。
「ふ、ふふふ……よかろう。ならばさっそく見せてくれようではないか……レッディースアーンッジェントルメーィン」
と、言いつつ、実際は予定時刻になったのでホロムービーで聞いたことがあるような前口上で注目を集めるデビごっこさん。研究発表会の開始に相応しいのかは疑問だが、楽しそうだし良いか。
俺には難しい研究に関する事前知識だとかあれこれをぼーっと聞き流していたら、ホロウィンドウが表示していた待機画面がコンテナ内のライブ映像に切り替わった。
デビごっこさん、ふわふわヘアーさん、苦労人ぽい三女エルフさんと俺の四人で囲んでいるホロウィンドウを三人ともじーと見つめているので俺も空気を読んでじーっと見つめる。
ホロウィンドウの中央でカウントダウンが始まり、やがてゼロになるとカウントダウンの数字が消え、数字のあったところに歪んでる気がしなくもない球体のようななにかが現れた。水に見えるなと思っていたら、途端に大部屋がわーっと沸いた。デビごっこさん with エルフシスターズがすごく自慢気な顔をしている。
実験は成功したっぽい。ヨカッタヨカッタ。ぶっちゃけ今回の実験に関して何一つ理解していないので雰囲気に同調できてない。
「なんだか反応が鈍くありませんか?」
デビごっこさんがふわふわヘアーさんに質問攻めされている横で、そそっと寄ってきた釈然としない様子の苦労人ぽい三女エルフさんに聞かれた、正直に答えるしかない。
「いやあ……なんかの実験が成功したんだなとしか分からなくて」
苦労人ぽい三女エルフさんは目まぐるしく色んな表情を浮かべた最後、どんな顔をすれば良いか分からなかったんだと分かる引きつった笑みを顔に張り付けた。
「た、端的にいうと、深深度亜次元で発見したエネルギーを水に変換するという実験です」
「え、すごい」
物質をエネルギーに直接変換したらなんかすごいことになるのは俺でも知ってる。
つまり、エネルギーを物質に変換するには、ものすごいエネルギーを注ぎ込んで分子一個できるとかそういうこと……なんじゃないのかな……? あんまり自信ないわ。
「その通りです。詳しい数字は――ともかく」
数字言われてもちょっとって俺の顔を見て瞬時に話の方向を切り替えてくれる苦労人ぽい三女エルフさんステキ。
「深深度亜次元で発見したエネルギー、仮に魔力と私たちは呼んでいますが、この魔力は物質に変換するにあたり他のエネルギーに比べてはるかに少なく済むんです。逆に物質を魔力に変換すると、他のエネルギーと比べてはるかに少ないんですけど」
「おー」
そうなんだーすごいんだなー。
「フハハハハハ。我が魔法に恐れ戦いたか。フハーッハッハッハッハッ」
俺と苦労人ぽい三女エルフさんのやりとりに注意を払っていたデビごっこさんがダッシュでやってきて、ものすごくふんぞり返ってらっしゃる。
よしよし頭を撫でてやろう。
「ふへー……あれ? なんか反応が思ってたのと違う……」
頭をわしゃわしゃされてご満悦だったデビごっこさんが、ふと不思議そうな感じに呟いた。
「なんだか反応が薄いような?」
デビごっこさんが俺に撫でられるのを邪魔しないように質問攻めを我慢していたふわふわヘアーさんも、不思議そうな感じに俺の方を見て呟いた。
何が不思議なんじゃろ。
「魔法、すごくないかしら?」
ふわふわヘアーさんはちょっと悩んだあと、俺にもわかるように疑問を言葉にしてくれた。
魔法? ああ、新しいエネルギーに魔力って呼び名を付けたなら、そのエネルギーを使った技術は魔法……なのかな?
「いや、だってデビごっこさんが魔法って呼び方してるけど、これって単純になんか新しいエネルギーが見つかったよってだけじゃん? 今までにもよく分かんないすごいものはさんざん目にしてきてるし、すごいエネルギーが見つかってすごいんだなとしか」
「それはそうなんですけど……そうなんですけど……!」
もどかしそうな苦労人ぽい三女エルフさん。
「うぐぐぐぐぐ……」
凄まじい顔で唸るデビごっこさん。
「その認識は間違ってはいないんだけど……いえ、そうね、そう……今まで触れてきた未知とかわらないわ」
俺の見解を聞いてなにやら納得したふわふわヘアーさん。
あ、なんかちょっとデビごっこさん with エルフシスターズに申し訳なくなった。
その後、新発見の魔力がいかにすごいのか教えてもらったが、亜次元でシールドを展開しないと宇宙船が急速に劣化する原因が魔力だと教えてもらい漸くなんかすごいって思いました。
デビごっこさんが≪金剛城≫のデータベースに存在する魔力に関するデータの秘匿を無機質美人のホログラムに頼んでいた所為で他のクルーが魔力の存在すら知らなかったっていうのは、なにしてんのとちょっと呆れてしまった。
魔力はしばらく≪金剛城≫クルーの玩具になるんだろうな。




