第97話
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「まーくんおはよ!」
生徒会長選挙を一週間後に控え、今日からいよいよ選挙活動が可能となる。
俺達は朝からビラ配りをするため、環奈がいつもより二時間早く迎えに来た。
「おう! んじゃ、行くか!」
俺は靴を履き、環奈に声を掛けると、姉ちゃんがリビングから出てきた。
「二人とも、選挙戦は初日が重要だ。頑張るんだぞ!」
「「うん!」」
姉ちゃんに活を入れてもらった俺達は早朝でも気合十分で、意気揚々と家を出た。
「まーくん、そういえば今日配るビラは長岡くんが用意してくれてるんだよね?」
「おう。さすがに手慣れたもんで、ポスター含めてあっという間にデザインしちまったよな」
「ねー!」
俺と環奈は歩きながら頷き合う。
や、長岡がうちの陣営にいるだけでかなりのアドバンテージだ。
なにせ、ポスターやチラシのデザインはもちろん、必要な物の手配はパソコンやネットを駆使して、アイツが全部やってくれる。
「それに、クラスのみんなも全員私達を手伝ってくれることになったし」
「ああ、本当にありがたいよな」
そう。長岡や山川、佐々木に葉山はもちろんのこと、他のクラスメイト達も積極的に協力を申し出てくれた。
その中には、優希の姿も。
一方で、杉山はといえば、クラスメイトの誰一人協力を得られなかったから、サッカー部の連中に手伝ってもらうみたいだ。
後は、杉山のファンの一部の一年女子かなあ。
まあ、陣営としては環奈のほうがかなり有利ではあるけど、もちろん気を抜いたりはしない。
そうじゃないと、俺達がステラでバイトできなくなっちまうからな。これ大事。
ということで。
「坂崎環奈をよろしくお願いしまーす!」
学校に着くなり、俺達は長岡の用意したチラシを持って、ビラ配りに精を出している。
んー、でも……。
「なかなか受け取ってもらえないなあ……」
多くの生徒達は、チラシを渡そうとしても断られてしまう。
まあ、俺だって街頭で配られても受け取ったりしないしなあ。
周りを見ても、他のみんなも同じようで受け取ってもらえずに苦労しているみたいだ。
ウーン……生徒会長選挙、なかなか難しい。
それと。
「杉山陣営は、なんでビラ配りしてないんだ?」
そうなのだ。普通だったら、重要な選挙戦の初日はビラ配りなどして積極的にアピールするはずなのに、連中に一切動きがない。
今日を迎える前においても、何か準備をしている様子もなかったし……。
「ひょっとして、環奈が立候補したもんだから、選挙を諦めたのかな……」
などと考えてはみたものの、まあ、それはないだろうなあ。
だって杉山の奴、恥ずかしげもなく優希から環奈にまた鞍替えして、やたらと粘着してるからなあ。
「おっと、ビラ配りに集中しないと」
俺は首を傾げながら、ギリギリまでビラ配りにいそしんだ。
◇
「……結局、向こうに動きがなかったでござるな……」
「ああ……」
昼休み、杉山を除くクラス全員で朝の反省会をしている。
本当は放課後にしても良かったんだけど、それだと部活がある人達は参加できなくなっちまうからな。
そして杉山は、当然クラスに居場所がないからそそくさとどこかに行った。
まあ、向こうも向こうで打ち合わせしてるのかもしれねーけど。
「向こうを気にするよりさ、チラシを受け取ってもらう方法を考えたりするほうが先じゃない?」
「そうだよねー……」
「あ、だけど坂口さんはチラシをたくさん受け取ってもらってたよね?」
「あ、わ、私!?」
突然話を振られ、しどろもどろになる優希。
修学旅行以来、相変わらず俺や環奈とは会話もないが、それでもこうやって手伝ってくれていることに、感謝してなくもない。
まあ、今の俺の中には優希に対する恋愛感情の“れ”の字もないけど。
「でも、それが票に結び付くかっていえば、微妙じゃない?」
「だよねー……」
そして、みんながまたガックリ肩を落とす。
「とにかく、私達は地道に選挙活動をして少しでも支持者を確保していこう! それに、向こうはまだ何の手も打ってないんだし」
「おう、そうだな。んじゃ、放課後も部活がない人達でビラ配りするかー」
環奈の言葉で、俺達は気合を入れ直すと。
――キーンコーン。
「あ、もう昼休みも終わりかー」
俺達は、それぞれ自分の席に戻った。
で、杉山の奴もいつの間にか教室に戻って来て自分の席に座っている。
ただ。
「アイツ……なんであんなにニヤニヤしてやがるんだ?」
俺は杉山の表情が妙に気になって、午後の授業に集中できなかった。
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