第92話
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「はあ……」
俺はステラへの道のりを、重い足取りでたった一人歩いている
チクショウ、結局環奈の奴は選挙管理委員会のメンバーと打ち合わせでバイト出れないっつーし……コレ、いつまで続くんだろーなー……。
それにしても。
「佐々木と長岡が、ここまで薄情だとは思わなかった」
何だよアイツ等、俺が昼メシ誘おうと思ったら、佐々木の奴は暗い顔しながら葉山と二人でどっか行っちまうし、長岡に至っては、山川に無理やり拉致られて……うん、二人とも、別に悪くはなかったな。
それより何が一番つらかったかって、一人ぼっちでメシ食ってたのが、俺と杉山だけだったってことだ。
ゆ……坂口さんは、なんだかんだで相変わらず人気者ではあるから、必ず誰かと一緒にいるんだよなあ……。
や、もちろん俺も今さら何とも思っちゃいないけど、修学旅行の一件があったからか、チラチラと俺のほうを見てやがるんだよなあ。知らんけど。
で、杉山については、その一件で同じ班だったクラスメイト達をぞんざいに扱ったりしたせいで、クラスではハブられてた。自業自得だ。
といっても、他のクラスの奴や一年、三年はそんなこと知らないから、部活に行けば変わらねーんだろうけど。
ま、いいや。それより。
「ヤベ、もうこんな時間だ……」
スマホで時計を確認した俺は、気持ち早足でステラへと急いだ。
◇
「ふう……」
「モウ、正宗ちゃん一体どうしちゃったの?」
俺の溜息を耳聡く聞いていた店長が、心配そうに俺を見つめる。
「や、別に何もないっす」
「そう? だったらいいけど……」
そう言うと、何度かこちらを振り返りつつ、厨房へと戻っていった。
よし……気持ち切り替えて仕事するか。
俺は気合を入れるために頬を叩くと。
「いらっしゃいませ」
テキパキとお客をさばいていく。
いつもならハルさんがもうバイトに入ってるはずなんだけど、今日はまだ来ていなかった。
……授業が長引いてるのかな……って、大学だしそんなことはないか。
「すいません! 遅れました!」
噂をすれば、ってヤツだな。
ハルさんは息を切らしながら申し訳なさそうな表情でホールに出てきた。
「すいません正宗くん、大変だったでしょう……?」
「あ、いや、大丈夫っす」
「そうですか……?」
「はい。あ、いらっしゃいませ」
俺はハルさんにそう返事したんだけど、なぜかハルさんは怪訝そうな表情を浮かべる。
でも、本当に今日は珍しくお客も落ち着いてるし、それほど忙しくないんだけどなあ。
……などと考えていた自分が甘かった。
ハルさんがバイトに入った瞬間、押し寄せるようにお客が殺到し、結局閉店間際までお客も途切れることなく大忙しだった……。
「や、やっとお客が全員帰った……」
「うふふ、お疲れ様でした」
ハルさんが労いの言葉をかけながらお水を差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
俺はそれを受け取ると、水を一気に飲み干す。
うむ、労働の後の一杯は美味い。
それも、ハルさんからの差し入れとなると最高なのである。
「ふふ……そうだ、この後ちょっとだけお時間よろしいですか?」
? なんだろう?
「え、ええ、それは大丈夫っすけど……」
俺はハルさんの意図が分からないものの、特に何も考えずに返事をした。
「ありがとうございます。じゃあ更衣室にでも行きましょうか」
「は、はあ……」
てっきり店を出てからだと思っていた俺は、誘われるままハルさんと一緒に更衣室へと向かう。
——パタン。
更衣室に入り、ハルさんが静かにドアを閉める。
「さて……じゃあちょっと座りましょう」
「はあ……」
ハルさんに促され、俺はおずおずと椅子に腰かける。
すると。
「正宗くん、環奈さんと何があったんですか?」
「っ!?」
開口一番、ハルさんは真剣な表情で俺に問い掛ける。
「あ……」
俺は思わず言葉を失い、身体が硬直する。
「すいません、この質問は正確じゃなかったですね。環奈さんと羽弥、二人と何があったんですか?」
「あ……」
姉ちゃんのことも……か……。
「……どうして……?」
「環奈さんについては、正宗くん達と京都で別れた時から違和感を覚えていました。決定的だったのは、駅にお二人を迎えに行った時、でしょうか……」
……姉ちゃんだって勘づいたんだ。ハルさんが気づいてもおかしくない、か……。
「羽弥については今日大学で会った時、様子がおかしかったので問い質したんですが、羽弥はただ『すまない』とだけ……」
「…………………………」
俺は何も言うことができず、ハルさんの視線にも耐えられず、ただ顔を逸らした。
俺……は……。
「正宗くん」
すると、ハルさんが近づき、俺の顔を両手で挟んで半ば強引にハルさんへと顔を向けさせられた。
ハルさんの顔が、近い。
「正宗くん……本当を言うと、二人と何があったのか、それなりに想像はついています……だから、あなたがこのまま何も話さなくても構いません」
「…………………………」
「だけど」
そう一言……たった一言呟くと。
——ハルさんが俺にキスをした。
「ん……ちゅ……」
「んむ……はあ……」
そして、その唇を離すと。
「私、負けませんから……諦めませんから……!」
ハルさんは瞳に涙を溜め、そう宣言すると、更衣室から出ていった。
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